はじめに:そのしつこい高熱、「プール熱」かも
「39℃以上の熱が、もう3日も続いている…」
「目が真っ赤に充血して、目やにがひどい…」
「喉がすごく痛いみたいで、何も食べてくれない…」
夏になると、決まって保育園や学校で流行りだす、しつこい感染症。その代表格が、**「アデノウイルス感染症」です。一般的には、プールでの接触やタオルの共用で感染が広がりやすいことから、「プール熱」**という名前で知られていますよね。
解熱剤を使っても、すぐにまたぶり返す高熱。そして、痛々しいほど真っ赤な目。その症状の強さと長さから、親としては「本当に、このまま治るんだろうか…」と、心身ともに疲れ果ててしまう病気の一つです。
こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。
『季節の感染症、完全攻略』シリーズの最終回。今回は、このしつこくて厄介な「アデノウイルス」についてです。実は、このウイルス、「プール熱」以外にも様々な症状を引き起こす、カメレオンのような一面を持っています。その多彩な症状と、長い闘病期間を親子で乗り切るためのポイントを、ママナースの視点から詳しく解説していきます。
アデノウイルスは、七変化する!主な3つの病気
アデノウイルスは、非常に感染力が強く、実に50種類以上もの型が存在します。そのため、一度かかっても、違う型に感染して、何度も繰り返しかかることがあります。そして、感染したウイルスの型によって、現れる症状も様々です。
① 咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)= プール熱
これが、いわゆる「プール熱」です。その名の通り、**「咽頭(のど)」と「結膜(め)」**に、強い症状が現れます。
- 主な症状:
- 高熱: 39℃〜40℃の高熱が、4〜5日間続きます。
- 咽頭炎: 喉が真っ赤に腫れ、激しい痛みを伴います。
- 結膜炎: 目が真っ赤に充血し、目やにがたくさん出ます。目の痛みや、光を眩しく感じることも。
- ポイント: この3つの症状が、全て揃うとは限りません。熱と喉の症状だけ、という場合もあります。
② 流行性角結膜炎(りゅうこうせいかくけつまくえん)= はやり目
目の症状が、特に強く出るタイプのアデノウイルス感染症です。
- 主な症状: 激しい目の充血、ゴロゴロとした異物感、まぶたの腫れ、大量の目やにが特徴です。感染力が非常に強く、片目から始まって、数日のうちにもう片方の目にもうつることが多いです。
- ポイント: 目の症状がメインなので、眼科での専門的な治療が必要になります。
③ 胃腸炎
アデノウイルスは、お腹の風邪(胃腸炎)の原因になることもあります。
- 主な症状: 嘔吐、下痢、腹痛など。ロタウイルスやノロウイルスと比べると、症状は比較的軽いことが多いですが、乳幼児では長引くこともあります。
この他にも、肺炎や、血尿を伴う出血性膀胱炎など、様々な病気の原因になる、本当に厄介なウイルスなのです。
長い闘い…家庭でのケアと乗り切り方のポイント
アデノウイルスにも、残念ながら特効薬はありません。つまり、ウイルスに対する抵抗力がついて、自然に治るのを待つしかないのです。高熱や喉の痛みと戦う子どもを、どうサポートしてあげればいいのでしょうか。
- 水分補給が最優先: 高熱と喉の痛みで、脱水になりやすいのが一番怖いポイントです。手足口病の時と同様に、プリン、ゼリー、アイス、冷たいスープなど、喉越しの良い、刺激の少ないものを、少量ずつこまめに与えましょう。
- 解熱剤の上手な活用: 熱が4〜5日続くと、親も子も体力が消耗します。子どもがぐったりして水分も摂れないような時は、解熱剤を上手に使って、一時的にでも体を休ませてあげましょう。
- 目のケア: 目やにがひどい時は、濡らした清潔なガーゼやコットンで、目頭から目尻に向かって、優しく拭き取ってあげてください。兄弟がいる場合は、絶対に同じガーゼを使わないこと。
登園・登校の目安は?
アデノウイルス感染症のうち、「咽頭結膜熱(プール熱)」と「流行性角結膜炎(はやり目)」は、学校保健安全法で、出席停止が定められている感染症です。
登園・登校を再開できる目安は、
「主な症状がなくなった後、2日間が経過していること」
とされています。
つまり、熱が下がり、喉の痛みや目の充血などの主要な症状が治まってから、丸2日間、家で元気に過ごせたら、登園・登校が可能になります。ただし、最終的には医師の許可(登園許可証など)が必要になることがほとんどです。必ず、かかりつけ医と園・学校の指示に従ってください。
家族内での感染力が非常に強い!徹底すべき予防策
アデノウイルスは、手足口病と同様に、接触感染と飛沫感染で広がります。特に、目の症状がある場合は、涙や目やににも大量のウイルスが含まれているため、注意が必要です。
- 手洗いの徹底: 基本中の基本ですが、これが最も重要です。
- タオルの共用は絶対にNG: 顔や手を拭くタオル、お風呂のタオルは、厳格に分けましょう。これは、症状が治まった後も、しばらく続ける必要があります。
- お風呂の順番を最後にする: 感染している子どもは、お風呂の順番を最後にし、湯船には浸からず、シャワーだけにするのが無難です。
- ドアノブやスイッチなどを消毒する: アルコール消毒は、実はアデノウイルスには効きにくいとされています。**次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤を薄めたもの)**で、こまめに拭くのが効果的です。
まとめ:敵を知り、正しく恐れること
しつこい高熱と、多彩な症状。そして、非常に強い感染力。アデノウイルスは、まさに“やっかいな夏のボスキャラ”です。
でも、その正体と戦い方を知っていれば、過度に恐れる必要はありません。家庭でのケアのポイントは、あくまで「脱水を防ぎ、体力を消耗させないこと」。そして、家族に感染を広げないための「徹底した予防策」です。
これで、『季節の感染症、完全攻略』シリーズは終わりです。夏風邪、冬の感染症…と、子育て中は一年中、ウイルスとの戦いですが、正しい知識を武器に、親子で乗り切っていきましょうね!