感情表現

転んでも泣かない子は偉い?ナースが語る「痛い」と言える環境の本当の大切さ

公園で転んで、膝を擦りむいても、泣かずに立ち上がる我が子。「偉いね」と褒めていませんか?

公園の遊具から、ドスンと落ちて、膝を擦りむいた我が子。
一瞬、顔を歪ませたものの、グッと唇を噛み締め、泣かずに立ち上がった。

「〇〇ちゃん、偉いね!泣かないで、強いね!」

周りのママ友も、「すごいねー!」と、褒めてくれる。
私も、内心、「うちの子、我慢強い子に育ったな」と、誇らしく思っていました。

でも、ナースとして、たくさんの子どもたちと接してきた経験から、
そして、3姉妹の母として、子育てをしてきた中で、
私は、あることに気づいたんです。

それは、「転んでも泣かない子が、本当に偉いわけではない」ということ。
むしろ、
「痛い」と素直に感情を表現できること、そして、その痛みを親が受け止めること
の方が、子どもにとって、はるかに大切なのではないか、と。

今日は、そんな、子どもの「痛み」と、親の「共感」について、ナースの視点から、お話しさせてください。

「転んでも泣かない子」は、本当に偉いのか?

一見すると、「転んでも泣かない子」は、「強い子」「我慢できる子」に見えますよね。
でも、その「泣かない」という行動の裏には、様々な理由が隠されている可能性があります。

  • 「泣いてはいけない」というメッセージ:親や周囲から「泣かないの!」「男の子(女の子)なんだから、我慢しなさい!」というメッセージを、繰り返し受け取っていると、子どもは「泣くことは悪いこと」だと学習してしまいます。
  • 感情の抑圧:痛いのに、泣けない。悲しいのに、悲しいと言えない。感情を抑圧することは、子どもの心に大きな負担をかけます。
  • 親への遠慮:親が忙しそうにしているから、心配をかけたくないから、と、子どもなりに親に遠慮している場合もあります。

痛みを我慢することが、子どもの心に与える影響は、決して小さくありません。
自分の感情を素直に表現できないことは、将来、ストレスを抱え込みやすくなったり、他者とのコミュニケーションに支障をきたしたりすることにも繋がりかねないのです。

小さな痛みを知らないと、大きな痛みが想像できない

これは、身体的な痛みだけでなく、心の痛みも同様です。

子どもは、小さな痛みを経験し、それを親に伝え、親がその痛みに寄り添い、受け止めてもらうことで、初めて「痛い」という感覚を、具体的に理解することができます。

そして、その経験があるからこそ、
「自分が痛い時、どんな気持ちになるか」
「相手が痛い時、どんな気持ちになるか」
を想像できるようになり、他者の痛みにも共感できる、優しい心を育むことができるのです。

「転んでも泣かない子」は、もしかしたら、この「小さな痛みを知る」という大切な経験を、十分にできていないのかもしれません。

「痛い」と言える環境を作るための、3つのステップ

では、どうすれば、子どもが「痛い」と素直に感情を表現できる環境を作れるのでしょうか。

ステップ1:「痛かったね」「びっくりしたね」と、共感する

子どもが転んだり、ぶつけたりした時、まず最初にすべきことは、子どもの感情に寄り添うことです。
「痛かったね」「びっくりしたね」「ママも見ててヒヤッとしたよ」
と、子どもの気持ちを言葉にして、共感してあげましょう。
この共感が、子どもにとって、何よりも大きな安心感を与えます。

ステップ2:「痛かったら、泣いてもいいんだよ」と伝える

「泣かないの!」ではなく、
「痛かったら、泣いてもいいんだよ」
「悲しかったら、悲しいって言っていいんだよ」
と、感情を表現することを、許容するメッセージを伝えましょう。
子どもは、親に感情を受け止めてもらえることで、安心して、自分の気持ちを表現できるようになります。

ステップ3:「ママがいるから大丈夫だよ」と、安心させる

痛みを共有し、共感した上で、
「ママがいるから大丈夫だよ」
「よしよし、痛いの痛いの飛んでいけー」
と、安心感を与える言葉やスキンシップで、子どもを包み込んであげましょう。
この安心感が、子どもの心を癒し、また次の一歩を踏み出す勇気を与えます。

ケガを恐れすぎないで。大切なのは「対処法」を教えること

もちろん、子どもには、できるだけケガをしてほしくない、と願うのが親心です。
でも、ケガをさせないようにと、過保護になりすぎるのは、子どもの成長の機会を奪ってしまうことにも繋がりかねません。

大切なのは、ケガを恐れすぎることではなく、
**「ケガをした時に、どうすればいいか」**を、子どもに教えることです。

  • 「痛い」と親に伝えること。
  • 傷口を清潔にすること。
  • 絆創膏を貼ること。

これらの対処法を、子どもと一緒に経験することで、子どもは、自分の体を守る術を学び、同時に、親への信頼感を深めていきます。

「痛い」と言える子が、本当に強い子

転んでも泣かない子が偉いのではなく、
「痛い」と素直に感情を表現できる子が、本当に強い子です。

親は、子どもの痛みに寄り添い、感情を受け止めることで、
子どもの心と体の両方を育むことができます。

どうか、あなたの目の前で、痛みを訴える我が子を、
「弱い子」だと、思わないでください。
その「痛い」という言葉は、あなたへの、そして、自分自身への、大切なメッセージなのですから。

「男の子だから泣かないの」は心を壊す呪文。感情を素直に出せる子に育つ親の声かけ

「男の子でしょ、泣かないの!」…その言葉、善意という名の“呪い”です

公園で転んで、膝をすりむいて、わーんと泣き出した男の子。
駆け寄ってきたママが、優しいながらも、少しだけ強い口調でこう言いました。

「こら、〇〇!男の子でしょ、泣かないの!」

きっと、あなたも一度は聞いたり、あるいは、ご自身が口にしたりしたことがあるのではないでしょうか。
「男の子には、強くあってほしい」
その、親としての切なる願いが、その言葉には込められています。

でも、3姉妹の母であり、ナースとして多くの人の心と体に向き合ってきた私には、その言葉が、子どもの心を縛り付け、健やかな成長を歪めてしまう、強力な**「呪いの言葉」**に聞こえてしまうのです。

「男の子だから」という呪いが、心を静かに蝕んでいく

「男の子は、強くあるべきだ」
「涙は、弱さの証だ」
「メソメソするなんて、男らしくない」

私たち大人の中に、無意識に刷り込まれている、こうした「男らしさ」という名のジェンダーバイアス。
そのバイアスから生まれる「男の子なんだから泣かないの」という言葉は、子どもに、こう学習させてしまいます。

「泣きたい、という気持ちは、ダメな気持ちなんだ」
「悲しい、怖い、悔しい、と感じるのは、悪いことなんだ」

そうやって、子どもは、自分の中に自然に湧き上がってくる、素直な感情に、必死に蓋をするようになります。
泣きたい気持ちを、無理やり笑顔で隠したり、平気なフリをしたり…。

でも、行き場を失った感情は、決して消えてなくなるわけではありません。
心の中に溜め込まれたストレスは、ある日突然、原因不明の体調不良として体に現れたり、乱暴な行動や、無気力といった、別の形で現れたりすることがあるのです。

本当の「強さ」とは、感情を“感じない”ことじゃない

そもそも、本当の「強さ」とは、一体何でしょうか。
それは、痛みや悲しみを感じない「鋼の心」を持つことではありません。

むしろ逆です。

自分の中に湧き上がる、怒り、悲しみ、喜び、悔しさといった、様々な感情を、
「ああ、今、自分は、こう感じているんだな」
と、きちんと認識し、受け止めることができる。

そして、その感情に飲み込まれることなく、どう表現し、どう付き合っていくかを、自分でコントロールできること。

この「感情的知性(EQ)」こそが、変化の激しい社会を、しなやかに、たくましく生き抜くための、本当の強さの源泉となるのです。

ナースの私が実践する!感情豊かな子に育つ「魔法の声かけ」

では、男の子も女の子も関係なく、一人の人間として、感情豊かな、本当に強い心を育てるために、親として何ができるのでしょうか。

① 感情を「実況中継」して、名前をつけてあげる

子どもは、自分の中に渦巻くモヤモヤした気持ちが、何なのか、まだよくわかっていません。
そんな時、親がその気持ちを「実況中継」してあげましょう。

「おもちゃ、取られちゃったんだね。それは、悔しいよね」
「注射、怖かったね。よく頑張ったね」
「わー、一番になれて、嬉しいね!」

親が気持ちを代弁し、「感情に名前をつけてあげる」ことで、子どもは、「そっか、このモヤモヤは、悔しい、っていう気持ちなんだ」と、自分の感情を客観的に理解できるようになっていきます。

② どんな感情も、まずは「そのまんま」受け止める

たとえ、それがネガティブに見える感情でも、決して否定してはいけません。

「泣きたい時だって、あるよね」
「そんなの、怒って当たり前だよ。ママだって、そんなことされたら怒るもん」

と、まずは、その感情の存在そのものを、100%肯定してあげましょう。
「泣いてもいいんだ」「怒ってもいいんだ」という安心感が、子どもの感情の土台を、安定させてくれます。

③ 「どうしたい?」と、次への一歩を一緒に考える

感情を十分に受け止めてあげたら、次のステップです。

「そっか、悔しかったんだね。じゃあ、どうしたら、その悔しい気持ち、少しスッキリするかな?」
「ママに、どうしてほしい?」

と、子ども自身が、自分の気持ちをどう処理したいのか、考えるきっかけを与えてあげます。
親が「こうしなさい!」と指示するのではなく、子どもが自分で解決策を見つけるのを、サポートするのです。

「男の子だから」の前に、「あなただから」

男の子も、女の子も、その前に、たった一人の、かけがえのない「あなた」です。
嬉しい時には笑い、悲しい時には泣き、悔しい時には、声を上げて怒る。
それは、人間として、あまりにも自然で、尊い感情の働きです。

親の役目は、性別という、窮屈な鎧で、その自然な感情に蓋をさせることではありません。

どんな感情も、安心して表現できる「安全基地」となり、
その感情に、優しく寄り添い、名前をつけ、
そして、その感情という名の馬を、上手に乗りこなす方法を、一緒に学んであげること。

それこそが、本当に強く、そして、人の痛みがわかる、優しい心を育む、唯一の道なのだと、私は信じています。