「赤ちゃん、可愛いね」
「幸せいっぱいだね」

周りからそう言われるたびに、笑顔で頷きながら、心の中では土砂降りの雨が降っている…。

赤ちゃんは、あんなに愛おしいはずなのに。ずっと会いたかった我が子なのに、心の底から「可愛い」と思えない自分がいる。理由もないのに涙が溢れてきて、ささいなことで夫に当たってしまい、そんな自分にまた嫌気がさす。

もし、あなたが今、そんな暗くて長いトンネルの中にいるのなら、まずこれだけは信じてください。

その感情は、あなたがおかしいからでも、ダメな母親だからでも、決してありません。

こんにちは。3人の娘を育ててきた現役ママナースの皐月です。何を隠そう、私自身が長女を出産した後、同じような真っ暗な気持ちを経験しました。「母親になったんだから、私がしっかりしなきゃ」と思えば思うほど、心がすり減っていく、あの苦しい感覚。

育児中のママの心は、急激なホルモンバランスの乱高下と、24時間365日休みなしの育児という、心身ともに極限の状態に置かれています。心の不調は、いわば「心が風邪をひいている」のと同じこと。気合や根性でどうにかなるものではないんです。

この記事は、「気づき編」です。まずは「もしかして、私もそうかも」と自分の状態を知ること。それが、あなたと、あなたの愛する家族を守るための、最も大切で勇気ある第一歩になります。

この記事でわかること

  • 「幸せなはずなのに辛い」その気持ち、あなただけじゃない理由
  • これってただの疲れ?心の不調の種類とサイン
  • 「マタニティブルーズ」と「産後うつ」の決定的な違い
  • ママナースが一番伝えたい、あなたを責めないでほしい理由

「幸せなはずなのに…」その苦しさ、あなただけじゃありません

結論から言うと、産後に心のバランスを崩すのは、ごく自然なこと。10人に1人のママが「産後うつ」を経験すると言われています。

出産という命がけの大仕事の後、女性の体内のホルモンは、まるで嵐のように激しく変化します。それに加え、数時間おきの授乳、寝不足、社会からの孤立感…。

これだけの負担がかかれば、心や体に不調が出るのは、ある意味、当たり前なんです。「母親なら、できて当たり前」なんてことは、絶対にありません。

これって、ただの疲れ?心のSOSサインに気づくためのセルフチェック

「気の持ちよう」「みんな大変なのは同じ」…そう思って、自分の気持ちに蓋をしていませんか?まずは、あなたの心の声に耳を傾けてみましょう。

タイプ1:多くのママが経験する「マタニティブルーズ」

  • 時期: 産後2~3日から2週間くらい
  • どんな感じ? 理由もなく涙もろくなる、気分が沈む、かと思えば高揚するなど、感情の起伏が激しくなります。
  • 原因: 出産による急激なホルモン変化が主な原因。いわば「産後の生理現象」のようなものです。
  • ポイント: ほとんどの場合、特別な治療をしなくても自然に落ち着きます。「今はホルモンのせい!」と割り切って、とにかく体を休めることが大切です。

タイプ2:治療が必要な「産後うつ」

  • 時期: 産後1ヶ月ごろに多いですが、産後1年以内ならいつでも起こり得ます。
  • どんな感じ? マタニティブルーズと違い、以下の症状が2週間以上続きます。
    • □ 何もする気が起きない、億劫で仕方がない
    • □ 赤ちゃんが可愛いと思えず、お世話が苦痛に感じる
    • □ 赤ちゃんが寝ていても、自分は眠れない
    • □ 食欲がない、または過食してしまう
    • □ 理由もなく涙が止まらない、または全く感情が動かない
    • □ 自分はダメな母親だと、常に自分を責めている
    • □ ふと「消えてしまいたい」と考えてしまう
  • 原因: ホルモン変化に加え、睡眠不足、育児ストレス、孤独感などが複雑に絡み合って発症します。
  • ポイント: これは**治療が必要な「こころの病気」**です。あなたのせいではありません。専門家のサポートが必要です。

タイプ3:「育児ノイローゼ」や「バーンアウト(燃え尽き)」

「ちゃんとしなきゃ」という真面目なママほど、陥りやすいのがこの状態です。「離乳食は手作りじゃないと」「いつも笑顔の優しいママでいなきゃ」と自分を追い詰めた結果、ある日ぷつんと糸が切れたように無気力になったり、常にイライラしてしまったり…。これもまた、心が助けを求めているサインです。

【ママナースの視点】今、自分を責めているあなたに、一番伝えたいこと

もし、ここまでの内容を読んで、「私のことかもしれない」と感じたなら。私は、あなたに敬意を表します。自分の状態に気づくことは、本当に勇気がいることだからです。

看護師として、そして一人の母として、これだけは断言させてください。

あなたのせいでは、絶対にありません。

あなたが弱いからでも、愛情が足りないからでもない。それは、ホルモンと環境が引き起こす、誰にでも起こりうる「症状」です。

「頑張りが足りない」なんて、絶対に思わないでください。

あなたは、今まで一人で、本当に、本当によく頑張ってきました。これ以上、頑張る必要はありません。必要なのは、根性ではなく「休息」と「適切なサポート」です。

助けを求めることは、「母親失格」なんかじゃありません。

むしろ、自分の心と体をケアし、笑顔を取り戻そうとすることは、赤ちゃんにとっても、家族にとっても、最も賢明で、愛情深い「母親としての選択」です。

まとめ:あなたの笑顔が、家族の太陽だから

まずは、「私、すごく疲れてるんだな」と、自分の心と体を認めて、ねぎらってあげることから始めてみませんか。

「辛い」と声に出して言うこと。パートナーや友人に、「少しだけ話を聞いてほしい」と頼ること。それが、暗いトンネルを抜けるための、最初の光になります。

ママの笑顔は、家族みんなを照らす太陽です。あなたが笑顔でいられること以上に、大切なことなんてありません。どうか、自分を大切に、いたわってあげてくださいね。