赤ちゃんがようやく眠りについた、静かな夜。
隣にいる夫が、そっとあなたの肩に手を伸ばす。その瞬間、ビクッとして、思わず体をこわばらせてしまう。そして、そんな自分に気づいて、罪悪感で胸が苦しくなる…。
「昔は、あんなに大好きだったはずなのに」
「母親になったら、もう夫を愛せないの?」
「私だけが、おかしいのかな…」
もしあなたが今、誰にも言えないこんな悩みを一人で抱えているなら、まずこれだけは聞いてください。
その気持ち、少しもおかしくありません。あなたは、決して冷たい人間でも、ダメな妻でもない。それは、産後のママの心と体が経験する、ごく自然な反応なんです。
こんにちは!3人の娘を育ててきた、現役ママナースの皐月です。今回は、産後クライシスの中でも、最もデリケートで、多くの人が口に出せずにいる「産後の夫婦のスキンシップ」の問題に、優しく、でも真っ直ぐに向き合いたいと思います。
この記事でわかること
- 夫に触れられたくないと感じてしまう、3つのちゃんとした理由
- それは愛情が冷めたサインじゃない、という本当の意味
- 凍りついた心をとかす、今日からできる「はじめの一歩」
- 「セックス」よりずっと手前にある、大切なコミュニケーション
なぜ?夫に触れられたくないと感じてしまう「3つの理由」
「夫のことは人として好き。育児の戦友だとも思う。でも、どうしても触れられたくない」…その複雑な気持ちの裏には、ちゃんとした理由があります。
結論から言うと、それは「愛情がなくなった」からではなく、あなたの心と体が「母」になるために、大規模な変化を遂げた証拠なんです。
理由1:あなたの体は、まだ「戦場」だから
出産という大仕事を終えたママの体は、決して元通りではありません。
- ホルモンの大変化: 母乳を作るホルモン「プロラクチン」は、性的な欲求を抑える働きがあります。一方で、女性ホルモン「エストロゲン」は激減し、体が性的な刺激を受け入れにくい状態になっています。
- 身体的なダメージ: 会陰切開の傷、帝王切開の傷の痛みが続いていることも。また、慢性的な寝不足と24時間体制の育児で、体は常にバッテリー切れ寸前。「性欲」より「睡眠欲」が勝つのは、生物として当然のことです。
理由2:あなたの脳は、24時間「母モード」だから
産後のママの脳内は、赤ちゃんを守るための「母モード」一色に切り替わっています。
- 「女スイッチ」がOFFに: 赤ちゃんの泣き声、授乳の時間、おむつの心配…常にアンテナを張り巡らせ、我が子を守ることに全神経を集中させているため、「妻」や「女」としてのスイッチに切り替える余裕がありません。
- 夫が「家族」という名の「同居人」に: 恋愛対象だった夫が、一緒に子育てをする「戦友」であり、大切な「家族」になる。これは素晴らしい変化ですが、一方で、性的な対象として見えにくくなってしまうのも、自然な心理的変化なんです。
理由3:あなたの心には、「あの時」のトゲが刺さったままだから
これが、実は最も根深く、厄介な原因かもしれません。
あなたが一番辛かった産褥期。「手伝って」と言っても動いてくれなかった。夜泣きで大変な時に、一人だけぐっすり眠っていた。心無い一言を言われた…。
その時に受けた心の傷は、ママの心に小さなトゲのように残り続けます。「あの時、私を見捨てた相手と、今さらそんな気持ちになれるわけがない」という、生理的な拒絶反応に繋がっているケースは、本当に多いのです。
焦らないで。凍りついた心をとかす「はじめの一歩」
セックスは、夫婦のコミュニケーションの最終形態の一つにすぎません。いきなりそこを目指さなくて大丈夫。まずは、冷たくなってしまった二人の間に、ほんのり温かい空気を取り戻すことから始めてみませんか。
ステップ1:あなたの「本音」を、正直な言葉で伝える
夫からの誘いを、ただ黙って拒絶するのは一番のNG。夫も「俺は拒絶された」と傷つき、溝は深まるばかりです。「なぜ、今は応えられないのか」を、正直に、でも相手を責めない言葉で伝えてみましょう。
【言葉のテンプレート】
「あなたのことは人として大切に思ってる。でも、今はまだ体が回復していなくて、正直、触れられるのが辛いと感じてしまう時があるんだ」
「出産してから、自分の気持ちのコントロールがうまくできなくて…。女性として見られることに、まだ戸惑いがあるの。少しだけ、時間をくれないかな」
あなたの「嫌いになったわけじゃない」という言葉が、夫を安心させます。
ステップ2:一日5分でいい。「夫婦の時間」を取り戻す
赤ちゃんが寝た後、たった5分でもいいんです。「お疲れ様」とお互いにお茶を淹れて、**「赤ちゃん以外の話をする」**というルールで、話してみませんか?
今日の仕事の話、くだらないテレビの話、何でもいいんです。「パパ」と「ママ」の役割を一旦脱いで、一人の大人同士として話す時間が、二人の距離を少しだけ縮めてくれます。
ステップ3:スキンシップのハードルを、極限まで下げる
いきなりセックスを目指すのではなく、恋人時代に自然にしていた、セックスを伴わないスキンシップから再開してみましょう。
- 並んで歩く時に、そっと手をつないでみる。
- 「お疲れ様」と、肩をポンと叩く。
- 寝る前に「おやすみ」と、背中を優しく撫でる。
肌が触れ合うことで分泌される「オキシトシン」というホルモンは、安心感や信頼感を高める効果があります。まずは、触れられることへの「怖い」という気持ちを、少しずつ「安心」に変えていくことから始めましょう。
まとめ:もう一度、「戦友」から最高のパートナーへ
産後のセックスレスは、愛情が冷めた証拠ではなく、夫婦が**「恋人」から「子育てチーム」へと生まれ変わる過程で起こる、成長痛のようなもの**だと、私は思っています。
大切なのは、その問題を一人で抱え込まず、夫婦二人の課題として向き合うこと。
焦らないで大丈夫。セックスがなくても、夫婦の絆を深める方法はたくさんあります。日々の小さなコミュニケーションを積み重ねて、あなたたち夫婦だけのペースで、もう一度、新しい関係を築いていってください。その先には、恋人だった頃よりもっと強い絆で結ばれた、「最高のパートナー」としての未来が待っているはずですから。
