子どもの病気

【RSウイルス編】ただの鼻風邪とどう違う?重症化のサインと入院を避けるためのポイント

はじめに:そのしつこい鼻水、RSウイルスかも

「鼻水と咳が、もう1週間も続いている…」
「熱はないけど、なんだか呼吸がゼーゼーして苦しそう…」

特に、秋から冬にかけて流行のピークを迎える、子どもの呼吸器感染症。その中でも、多くの親御さんを悩ませ、小児科医が特に警戒するのが**「RSウイルス感染症」**です。

大人がかかっても、軽い鼻風邪程度で済むことがほとんど。しかし、このウイルス、実は初めて感染する赤ちゃんと、体力の弱い高齢者にとっては、時に命に関わるほど重症化するリスクを秘めた、非常に厄介な相手なのです。

こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。

『季節の感染症、完全攻略』シリーズの第2弾。今回は、特に0歳〜1歳のお子さんを持つ親御さんに、ぜひ知っておいてほしい「RSウイルス」についてです。ただの風邪だと油断していたら、いつの間にか肺炎や細気管支炎に進行し、入院…なんてことにならないために、**RSウイルスの特徴と、家庭で注意深く観察すべき「重症化のサイン」**を、ママナースの視点から詳しく解説していきます。


RSウイルス感染症、その正体とは?

RSウイルスは、2歳になるまでに、ほぼ100%の子どもが一度は感染すると言われている、非常にありふれたウイルスです。一度かかっても、何度も感染を繰り返します。

  • 主な症状: 発熱、鼻水、咳など、初期症状は普通の風邪とほとんど見分けがつきません。
  • 特徴:
    • とにかく、鼻水が多い! しかも、ネバネバとしていて、詰まりやすいのが特徴です。
    • 咳がだんだんひどくなり、**「ゼーゼー」「ヒューヒュー」**といった喘鳴(ぜんめい)が出やすい。
  • 流行る時期: 以前は秋〜冬が中心でしたが、近年は夏頃から流行が始まるなど、通年で見られます。
  • 潜伏期間: 感染してから2〜8日(多くは4〜6日)

なぜ、小さな赤ちゃんは重症化しやすいの?

大人は、気管支が太く、体力もあるため、RSウイルスに感染しても軽い症状で済みます。しかし、生後6ヶ月未満の赤ちゃん、特に、生まれつき心臓や肺に病気がある子や、早産で生まれた子は、重症化のリスクが非常に高くなります(ハイリスク群と呼ばれます)。

その理由は、

  1. 気管支が非常に細い: ウイルスの炎症で気管支が少し腫れただけでも、空気の通り道が簡単に塞がれてしまいます。
  2. 鼻呼吸が中心: 赤ちゃんは、まだ口で呼吸するのが上手ではありません。そのため、大量の鼻水で鼻が詰まってしまうと、呼吸をすること自体が困難になります。
  3. 体力がなく、免疫も未熟: ウイルスと戦う力が、まだ十分に備わっていません。

これらの理由から、RSウイルスは、小さな赤ちゃんにとって「ただの風邪」では済まないことが多いのです。


見逃さないで!入院を避けるための「重症化のサイン」

RSウイルスには、特効薬がありません。そのため、家庭でのケアと、悪化のサインを見逃さないことが何よりも重要です。以下の症状が見られたら、すぐに小児科を受診してください。

【呼吸状態のチェックポイント】

  • 呼吸が速く、苦しそう(肩で息をしている、息をするたびに小鼻がヒクヒクする)
  • 息を吸う時に、胸やお腹がペコペコとへこむ(陥没呼吸)
  • 呼吸に合わせて「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえる
  • 咳き込んで、顔色が悪くなることがある
  • 唇や爪の色が、白っぽかったり、紫色っぽかったりする(チアノーゼ)

【全身状態のチェックポイント】

  • 母乳やミルクの飲みが、いつもの半分以下
  • ぐったりしていて、元気がない
  • おしっこの量が、明らかに減っている
  • 眠れていない

これらのサインは、細気管支炎や肺炎に進行している可能性を示しています。特に、呼吸の異常は、緊急性が高いサインです。夜間であっても、ためらわずに救急外来を受診しましょう。


家庭でできること:とにかく「鼻水との戦い」

RSウイルスとの戦いは、すなわち**「鼻水との戦い」**と言っても過言ではありません。鼻詰まりを解消し、呼吸を楽にしてあげることが、家庭でできる最も重要なケアです。

  1. こまめな鼻水吸引: これが一番大切です。市販の**鼻水吸引器(電動タイプがおすすめ)**を使い、こまめに鼻水を吸ってあげましょう。特に、ミルクを飲む前や、寝る前に行うと効果的です。
  2. 加湿: 空気が乾燥すると、鼻水が固まりやすくなります。加湿器などで、部屋の湿度を50%〜60%に保ちましょう。
  3. 水分補給: 鼻水や咳で、体内の水分はどんどん失われます。脱水を防ぐため、少量ずつ、こまめに水分を与えましょう。
  4. 上半身を高くして寝かせる: 鼻水が喉に流れ込むのを防ぎ、呼吸を楽にするために、バスタオルなどを背中の下に入れて、少し傾斜をつけてあげましょう。

まとめ:正しい知識が、赤ちゃんの命を守る

RSウイルスは、多くの親、特に初めての育児に奮闘するママやパパを不安にさせる病気です。しかし、その特徴と、注意すべきサインを正しく知っておけば、過度に恐れる必要はありません。

「いつもと、ちょっと違うな」

その親の直感が、何よりの早期発見のセンサーになります。赤ちゃんの様子を注意深く観察し、心配なことがあれば、ためらわずに、かかりつけの小児科医に相談してくださいね。

次回は、『季節の感染症、完全攻略』シリーズの最終回。夏に流行のピークを迎え、「プール熱」とも呼ばれる**「アデノウイルス感染症」**について、詳しく解説します。

【手足口病編】登園の目安は?口の痛みを和らげる食事と、大人がうつらないための予防策

はじめに:そのポツポツ、もしかして…?

「あれ?なんだか手のひらに赤いポツポツが…」
「口の中が痛いって、ご飯を全然食べてくれない…」

特に、夏の保育園や幼稚園で、じわじわと流行りだす感染症。その名も**「手足口病」**。子育て中の親なら、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

熱はそれほど高くないことが多いけれど、手や足、そして口の中にできる痛々しい水ぶくれ(水疱)に、「これ、本当に治るの?」と不安になってしまいますよね。特に、口の中の痛みが強いと、子どもは何も食べたり飲んだりできなくなり、親としては心配でたまりません。

こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。

手足口病は、いわゆる「夏風邪」の代表格の一つ。多くの場合は自然に治る病気ですが、実は、いくつかの注意すべき点があります。そして、何よりつらいのが、痛みのために不機嫌になった子どものケアと、「これ、いつまで休めばいいの?」という登園の悩み。さらには、「パパやママにも、うつるの?」という恐怖…。

この記事では、そんな手足口病の気になるポイントを網羅した**『季節の感染症、完全攻略』シリーズ**の第1弾として、手足口病の症状から、登園の目安、家庭でのケア、そして家族への感染予防策まで、ママナースの視点で徹底的に解説します。


手足口病って、どんな病気?

手足口病は、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスなどのウイルスによって引き起こされる感染症です。その名の通り、主な症状は**「手」「足」「口」**に現れます。

  • 潜伏期間: 感染してから3〜5日ほど
  • 主な症状:
    • 口の中: 舌や頬の粘膜、唇の裏などに、痛みを伴う米粒くらいの水ぶくれや口内炎ができます。
    • 手足: 手のひら、足の裏、足の甲などに、赤いポツポツとした発疹や、少し膨らんだ水ぶくれができます。お尻や膝、肘などに出ることもあります。
    • 発熱: 3人に1人くらいの割合で、37〜38℃程度の熱が出ますが、高熱になることは稀です。
  • 流行る時期: 主に夏(7月〜8月がピーク)ですが、秋や冬にも見られます。

一番知りたい!登園・登校の目安は?

手足口病は、インフルエンザのように「解熱後〇日」といった明確な出席停止期間が法律で定められている病気ではありません。では、いつから登園・登校していいのでしょうか。

答えは、**「全身状態が良く、普段通りに集団生活が送れること」**です。

具体的には、以下の2つの条件がクリアできていれば、登園・登校を再開して良いと判断されることがほとんどです。

  1. 熱が下がっていること
  2. 口の痛みや体のだるさがなく、普段通りに食事がとれ、元気に遊べること

【ポイント】

  • 発疹が残っていても、登園は可能です。 手足の発疹は、治る過程でかさぶたにならず、皮がむけてきれいに消えていきます。この発疹自体に、感染力はほとんどありません。
  • ただし、園や学校によっては独自のルールがある場合も。 必ず、事前に園や学校に確認しましょう。

【最も注意すべきこと】
症状が回復した後も、実は、2〜4週間にわたって、便の中からウイルスが排出され続けます。 そのため、おむつ替えの後の手洗いや、タオルの共用を避けるなどの感染対策は、しばらくの間、続ける必要があります。


口が痛くて食べられない…そんな時の食事の工夫

手足口病で、子どもが一番つらいのは、口の中の痛みです。何を口に入れても染みて痛いので、食欲がなくなってしまいます。脱水を防ぐためにも、水分補給を第一に、以下のような食事を試してみてください。

  • OKなもの(喉越しがよく、刺激の少ないもの)
    • 冷たいもの: プリン、ゼリー、アイスクリーム、冷たいスープ、冷奴など。
    • 柔らかいもの: お粥、うどん、茶碗蒸し、ヨーグルト、バナナなど。
    • 水分: 麦茶、イオン飲料、牛乳など。
  • NGなもの(染みたり、刺激になったりするもの)
    • 熱いもの: 温かいスープやうどんも、人肌以下に冷ましてから。
    • 酸っぱいもの: オレンジジュースなどの柑橘系、酢の物など。
    • 味の濃いもの、しょっぱいもの: ケチャップ味のものや、醤油味のものなど。
    • 硬いもの: せんべいやクッキーなど。

ストローで飲むのも痛がるときは、スプーンで少しずつ流し込んであげると良いでしょう。


実は、大人もかかる!家族内感染を防ぐために

「手足口病は、子どもの病気」と思われがちですが、実は、大人にもうつります。 そして、大人がかかると、子どもよりも症状が重くなることが多く、高熱や関節痛、全身の倦怠感に苦しめられることも…。

看病する親が倒れてしまっては、元も子もありません。感染経路は、**「飛沫感染」「接触感染」「糞口感染」**です。以下の対策を、家族全員で徹底しましょう。

  1. 手洗いの徹底: これが最も重要です。特に、おむつ替えの後や、食事の前は、石鹸と流水で、30秒以上かけて丁寧に洗いましょう。
  2. タオルの共用はしない: 手を拭くタオル、お風呂のタオルは、必ず別々のものを使います。
  3. おむつは密閉して捨てる: 使用済みのおむつは、ビニール袋などに入れて、しっかりと口を縛ってから捨てましょう。ウイルスの拡散を防ぎます。

まとめ:つらい口内炎との戦い。ゴールはもうすぐ!

手足口病は、特効薬がなく、基本的には自然に治るのを待つしかありません。特に、口の痛みがピークの数日間は、子どもも不機嫌になり、親も心身ともに疲弊してしまう、まさに“戦い”です。

でも、その痛みのピークは、必ず越えられます。この記事で紹介した食事の工夫やケアを試しながら、なんとか乗り切ってください。

次回は、『季節の感染症、完全攻略』シリーズの第2弾として、冬に大流行し、特に小さな赤ちゃんが重症化しやすい**「RSウイルス感染症」**について、詳しく解説していきます。

【ホームケア編】咳で眠れない夜に。少しでも楽にするための家庭での対処法

はじめに:長い夜を、親子で乗り切るために

前回の「見分け方編」では、子どもの咳の音から、その裏に隠れた病気のサインを読み解く方法についてお話ししました。

▼前回の記事はこちら
【見分け方編】その咳、大丈夫?風邪、クループ、気管支炎…音で聞き分ける危険なサイン

幸い、緊急性の高い危険な咳ではなさそう。でも、コンコン、ゴホゴホ…と続く咳で、お子さんがなかなか寝付けなかったり、夜中に何度も起きてしまったりするのは、見ている親も本当につらいものですよね。

「このまま朝まで、咳がやまなかったらどうしよう…」
「何か、少しでも楽にしてあげられることはないの?」

そんな風に、無力感を感じてしまう夜もあるかもしれません。

こんにちは!現役看護師で、3姉妹の母でもある皐月です。

薬に頼るだけでなく、家庭でできるちょっとした工夫で、子どもの咳は、思った以上に和らぐことがあります。それは、ただ症状を緩和するだけでなく、「ママが自分のために、何かをしてくれている」という安心感を子どもに与える、何よりの“心の処方箋”にもなります。

この記事では、「ホームケア編」として、咳でつらそうなお子さんを、お家で少しでも楽にしてあげるための具体的なケア方法を、ママナースの視点からご紹介します。特別な道具がなくても、今日からすぐに実践できることばかりですよ。


咳を和らげるホームケア4つの基本

家庭での咳ケアの基本は、**「加湿」「水分補給」「安静」「換気」**です。この4つを意識するだけで、子どもの体はぐっと楽になります。

①【加湿】喉の乾燥は、咳の大敵!

乾燥した空気は、喉の粘膜を刺激し、咳を悪化させる最大の原因です。特に、エアコンを使う夏や冬は、部屋の湿度が下がりがちなので注意が必要です。

  • 加湿器を使う: 最も効果的な方法です。湿度の目安は50%〜60%。加湿器がない場合は、濡れたバスタオルを部屋に干しておくだけでも効果があります。
  • お風呂の湯気を吸わせる: 咳がひどくて寝付けない夜には、お風呂場にお湯を張って湯気を充満させ、その中でしばらく抱っこして過ごすのもおすすめです。クループ症候群の「ケンケン」という咳には、特に効果的です。
  • マスクをつける: マスクの内側が自分の呼気で潤うため、喉の保湿に繋がります。ただし、乳幼児や、嫌がる子に無理強いはしないでください。

②【水分補給】痰を出しやすくする、天然の去痰薬

体内の水分が足りないと、痰がネバネバと硬くなり、気管支に張り付いて、ますます咳がひどくなる…という悪循環に陥ります。

  • 何を飲ませる?: 子どもが欲しがるものでOKです。麦茶、湯冷まし、イオン飲料、薄めたりんごジュースなど。一度にたくさん飲ませるのではなく、スプーン1杯でもいいので、こまめに与えましょう。
  • 食事からの水分も意識: 食欲があれば、スープや味噌汁、ゼリー、果物など、水分の多い食べ物を与えるのも良い方法です。

③【体勢】少しの工夫で、呼吸が楽になる

横になると、鼻水が喉に流れ込んだり、気管が圧迫されたりして、咳が出やすくなります。

  • 上半身を少し高くして寝かせる: 背中にたたんだバスタオルやクッションを入れ、頭から肩にかけて、緩やかな傾斜をつけてあげましょう。呼吸が楽になり、咳込みが減ることがあります。
  • 縦抱きで背中をトントン: 痰が絡んだ咳をしている時は、縦に抱っこして、背中を優しくタッピングしてあげると、痰が移動して楽になることがあります。手を丸めて、リズミカルに、下から上へと行いましょう。

④【換気】新鮮な空気を取り入れる

咳の原因となるウイルスやハウスダストを、部屋の外に追い出すことも大切です。寒い日でも、1〜2時間に1回、5分程度で良いので、窓を開けて空気を入れ替えましょう。その際は、お子さんが湯冷めしないように、別の部屋に移動させるなどの配慮を忘れずに。


これはNG!咳を悪化させる可能性のあるケア

良かれと思ってやったことが、逆効果になることもあります。以下の点には注意してください。

  • 市販の咳止め薬を自己判断で使う: 子どもの咳は、痰などの異物を体の外に出そうとする防御反応です。無理に咳を止めると、かえってウイルスや細菌が体内に留まり、症状を長引かせる可能性があります。特に2歳未満の子どもへの市販薬の使用は、副作用のリスクも指摘されています。必ず、医師の指示に従いましょう。
  • 柑橘系のジュース: オレンジジュースなどは、喉を刺激して咳を誘発することがあります。咳がひどい時は、避けた方が無難です。
  • はちみつ: 1歳未満の赤ちゃんには、絶対に与えないでください。「乳児ボツリヌス症」という、命に関わる病気を引き起こす危険があります。

まとめ:ママの手は、何よりの“おくすり”

加湿、水分補給、楽な姿勢…。今回ご紹介したケアは、どれもシンプルなものばかりです。でも、その一つひとつに、「早く良くなってね」というママの想いが込められています。

つらそうな子どもを前に、不安になるのは当然です。でも、そんな時こそ、ママが優しく背中をさすってくれる手、抱きしめてくれる腕が、子どもにとってはどんな薬よりも効果のある“おくすり”になるはずです。

さて、次回の記事では、このシリーズの最終回として、「受診目安編」をお届けします。家庭でのケアを続けても、どんな状態になったら病院へ行くべきか、その具体的な判断基準について、詳しく解説していきます。

【受診目安編】子どもの咳、何科に行くべき?休日・夜間に救急外来を受診する判断基準

はじめに:「様子見」と「すぐ受診」の境界線、わかりますか?

これまでの2回の記事で、子どもの咳の「音」で見分ける病気のサインと、家庭でできる「ホームケア」についてお話してきました。

▼これまでの記事

  1. 【見分け方編】その咳、大丈夫?風邪、クループ、気管支炎…音で聞き分ける危険なサイン
  2. 【ホームケア編】咳で眠れない夜に。少しでも楽にするための家庭での対処法

ホームケアを試してみたけれど、咳がなかなか良くならない。むしろ、だんだんひどくなっているような…。

「このまま家で見ていて、手遅れになったらどうしよう」
「でも、ただの風邪で病院に行くのは、他の病気をもらうリスクもあるし…」

その迷い、痛いほどよくわかります。特に、初めてのお子さんだったり、夜間や休日だったりすると、その不安は一層大きくなりますよね。

こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。

この記事は、『子どもの「咳」完全ガイド』シリーズの最終回です。今回は「受診目安編」として、どんな状態になったら病院へ行くべきか、その具体的な判断基準を、フローチャートのように分かりやすく解説します。もう、「どうしよう…」と一人で悩まなくて大丈夫。この記事を、あなたのお家の“お守り”にしてください。


【日中の受診目安】まずは、かかりつけの小児科へ

基本的には、「いつもと違う」「なんだか心配」と感じたら、ためらわずに日中のうちにかかりつけの小児科を受診するのが一番です。その上で、以下のような症状が見られる場合は、早めに受診を検討しましょう。

チェックリスト:こんな症状があったら、小児科へGo!

  • □ 咳が3〜4日以上、続いている
  • □ だんだん咳の回数が増えたり、音がひどくなったりしている
  • □ 咳のせいで、夜中に何度も起きてしまい、よく眠れていない
  • □ 38度以上の熱が2日以上、続いている
  • □ 痰の色が、黄色や緑色になってきた(細菌感染の可能性があります)
  • □ 食欲がなく、いつもの半分も食べたり飲んだりできない
  • □ なんとなく元気がない、機嫌が悪く、ぐずぐずしている

これらの項目に一つでも当てはまるなら、それは体からのSOSサインです。自己判断で様子を見続けず、専門家の診察を受けましょう。

何科に行けばいい?

子どもの咳で、まずかかるべきは**「小児科」**です。小児科医は、子どもの病気の専門家。咳だけでなく、全身の状態を総合的に診て、的確な診断をしてくれます。

もし、咳が長引く(2週間以上)、特定の季節に悪化するなど、アレルギーが疑われる場合は、小児科から「アレルギー科」を紹介されることもあります。まずは、信頼できるかかりつけの小児科医に相談することが、適切な治療への近道です。


【夜間・休日の救急外来】ためらわずに、すぐ病院へ!

夜間や休日は、親の不安が最も高まる時間帯です。しかし、救急外来は、緊急性の高い患者さんのための場所。以下の「緊急性が高いサイン」が見られるかどうかを、冷静に観察してください。

緊急度【高】:すぐに救急外来へ!場合によっては救急車も

  • 呼吸の異常
    • 顔色・唇の色が悪い: 白っぽい、または紫色(チアノーゼ)になっている。これは、体内に酸素が足りていない、非常に危険なサインです。
    • 息が苦しそう: 肩を上下させて、必死に息をしている。小鼻がヒクヒクしている。息を吸う時に、胸やお腹がペコペコとへこむ(陥没呼吸)。
    • 呼吸が速い、または不規則: 安静にしている時の呼吸数を1分間測ってみましょう。(目安:新生児 40-50回、乳児 30-40回、幼児 20-30回)これより明らかに速い、または時々息が止まるような場合は危険です。
    • 息をするときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が聞こえる(喘鳴)
    • 犬の遠吠えのような「ケンケン」という咳がひどく、眠れない
  • 意識の異常
    • ぐったりしている: 呼びかけへの反応が鈍い、視線が合わない。
    • けいれんを起こした
  • 水分が摂れない
    • 半日以上、全く水分を摂れていない。おしっこが出ていない。

これらの症状が一つでも見られたら、迷わず夜間・休日救急外来を受診してください。特に、呼吸困難や意識障害がある場合は、**救急車(#119)**を呼ぶことをためらわないでください。

救急車を呼ぶか迷ったら?「#8000」に電話

「救急車を呼ぶべきか、自家用車で病院に行くべきか…」
そんな風に判断に迷った時は、**「小児救急電話相談(#8000)」**に電話してください。全国どこからでも、お住まいの都道府県の相談窓口に繋がり、小児科医や看護師から、受診の必要性や対処法についてアドバイスをもらえます。

受付時間:(自治体により異なりますが、多くの地域で)

  • 平日:19:00~翌朝8:00
  • 土日祝・年末年始:24時間対応

スマホに「#8000」を登録しておくと、いざという時に慌てずに行動できますよ。


まとめ:的確な判断が、子どもの命を救う

子どもの病状は、急に変化することがあります。だからこそ、親が「これは、おかしい」というサインを見逃さず、適切なタイミングで医療に繋げることが、何よりも大切です。

「心配しすぎかな?」というあなたの不安は、決して大げさではありません。それは、お子さんへの愛情の証です。自信を持って、そして、いざという時にはためらわずに、専門家を頼ってくださいね。

これで、『子どもの「咳」完全ガイド』シリーズは終わりです。この3つの記事が、咳で悩む親子にとって、少しでもお役に立てたなら、これほど嬉しいことはありません。

【咳の見分け方編】その咳、大丈夫?風邪、クループ、気管支炎…音で聞き分ける危険なサイン

はじめに:「コンコン」「ケンケン」…その咳、ただの風邪じゃないかも

ゴホゴホッ!
夜中、子どもの苦しそうな咳で目が覚める。熱はないみたいだけど、なんだかいつもと咳の音が違う…。

「ただの風邪かな?」「でも、もしかしたらもっと悪い病気…?」

子どもの咳は、親にとって最も身近で、そして最も不安になる症状の一つですよね。特に、言葉でうまく症状を伝えられない小さな子どもの場合、親がその「音」から危険なサインを察知してあげる必要があります。

こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。

病院の小児科では、毎日のように咳で苦しむ子どもたちと、心配そうな顔のお父さん、お母さんに会います。そして、たくさんの咳の音を聞く中で、「この咳は少し様子を見ても大丈夫」「この咳は、すぐに先生に診せないと」という判断を常にしています。

この記事では、そんなママナースの耳になったつもりで、咳の「音」や「特徴」から、その裏に隠れているかもしれない病気を見分ける方法と、家庭で様子を見ても良いか、すぐに病院へ行くべきかの判断基準を、分かりやすく解説します。


あなたは聞き分けられる?咳の音でわかる、病気のサイン

子どもの咳は、大きく分けていくつかの種類があります。それぞれの音の特徴と、考えられる病気を知っておきましょう。

①「コンコン、コホンコホン」乾いた咳

  • どんな音?: 痰が絡んでいない、乾いた感じの咳。
  • 考えられる病気:
    • 風邪のひき始め: 最も多い原因です。熱や鼻水など、他の症状も一緒に出ることが多いです。
    • 気管支炎の初期: 風邪から移行し、気管支に炎症が広がると、だんだん咳がひどくなります。
    • アレルギー: 特定の季節や場所で咳が出る場合、ハウスダストや花粉などのアレルギーも考えられます。
  • ホームケアのポイント: 部屋を加湿し、水分補給をこまめに行いましょう。基本的には、元気で食欲があれば、お家で様子を見て大丈夫です。

②「ケンケン!ケンケン!」犬の遠吠えのような咳

  • どんな音?: まるで犬やオットセイが鳴いているような、甲高い、かすれた咳。
  • 考えられる病気: クループ症候群
    • ウイルスの感染によって、喉頭(のど仏のあたり)が腫れて、空気の通り道が狭くなる病気です。特に、夜間に症状が悪化する傾向があります。
  • ホームケアのポイント:
    • 加湿が重要: 加湿器を使ったり、お風呂場に湯気を充満させて吸わせたりすると、楽になることがあります。
    • 縦抱きにする: 横になると気道が狭くなりやすいので、縦に抱っこしてあげると呼吸がしやすいです。
  • 危険なサイン: 咳がひどくて眠れない、呼吸をする時に「ヒューヒュー」という音(喘鳴)が聞こえる、顔色が悪い、息苦しそうにしている場合は、夜間でもためらわずに救急外来を受診してください。

③「ゴホゴホ、ゼロゼロ」痰が絡んだ湿った咳

  • どんな音?: 胸の奥の方で、痰がゴロゴロ、ゼロゼロと鳴っているような湿った咳。
  • 考えられる病気:
    • 気管支炎: 気管支の炎症が進み、分泌物(痰)が増えている状態です。
    • 肺炎: ウイルスや細菌が肺にまで達し、炎症を起こしている状態。高熱を伴うことが多いです。
    • RSウイルス感染症: 特に乳児(特に生後6ヶ月未満)がかかると、細気管支炎を引き起こし、重症化しやすいので注意が必要です。
  • ホームケアのポイント: 水分をしっかり摂って、痰を出しやすくしてあげましょう。背中を優しくトントンとタッピングしてあげるのも効果的です。
  • 危険なサイン: 呼吸が速い(1分間に50回以上など)、肩で息をしている、ミルクの飲みが悪い、ぐったりしている場合は、すぐに受診が必要です。

④「ヒューヒュー、ゼーゼー」喘息のような咳

  • どんな音?: 息を吐くときに、笛のような「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が混じる咳。
  • 考えられる病気: 気管支喘息
    • アレルギーなどが原因で、気道が慢性的に炎症を起こし、狭くなっている状態。ホコリやダニ、気温の変化などで発作が起こります。
  • ホームケアのポイント: 医師から処方されている吸入薬や内服薬を、指示通りに使いましょう。部屋を清潔に保ち、アレルゲンを減らすことも重要です。
  • 危険なサイン: 横になれないほど苦しそう、会話が途切れ途切れになる、爪や唇の色が紫色っぽい(チアノーゼ)場合は、救急車を呼ぶこともためらわないでください。

まとめ:迷った時は、かかりつけ医へ。親の「勘」も大切に

咳の音による見分け方をお伝えしましたが、これはあくまで一般的な目安です。複数の咳が混じっていたり、判断に迷ったりすることも多いと思います。

そんな時は、ためらわずに、かかりつけの小児科を受診してください。 そして、もう一つ信じてほしいのが、親自身の「なんだか、いつもと違う」という勘です。毎日お子さんを見ている親の直感は、どんなマニュアルよりも鋭いことがあります。

「このくらいで病院にかかるのは、大げさかな?」なんて、思う必要は全くありません。安心して、育児をするためにも、専門家を頼ってくださいね。

次回の記事では、「ホームケア編」として、病院に行くほどではないけれど、つらそうな咳をしているお子さんを、少しでも楽にしてあげるための具体的なお家でのケア方法について、詳しくお伝えします。