「ママ、こわい…」
地震の揺れが収まった後、小さな体でギュッと抱きついてきた我が子。その震える声を聞いた時、胸が張り裂けそうになりました。
私たち大人がこれほど不安なのだから、子どもたちが感じる恐怖は計り知れません。災害は、建物を壊すだけでなく、子どもの柔らかい心にも、見えない傷跡を残していきます。
私自身、看護師として、そして3人の娘の母として、災害後の子どもたちの心の変化をたくさん見てきました。急に赤ちゃん返りしたり、夜中に突然泣き出したり、些細なことでかんしゃくを起こしたり…。それは、子どもが発する「助けて」のサインなんです。
でも、ママ・パパも被災者です。自分の心も不安定な中で、「しっかりしなきゃ」と自分を追い詰めていませんか?
大丈夫。完璧な親にならなくていいんです。
この記事では、特別なことではなく、不安な毎日の中でもできる、子どもの心にそっと寄り添うための具体的な方法をお伝えします。ママナースとしての知識と、一人の母親としての経験から、「これならできそう」と思っていただけるヒントが、きっと見つかるはずです。
それ、心のサインかも?災害後に見られる子どもの変化
災害という非日常的な出来事は、子どもの心に大きなストレスを与えます。そのストレスは、様々な「いつもと違う行動」として現れます。まずは、子どもの心が出しているサインに気づいてあげることが、ケアの第一歩です。
体に現れるサイン
- おねしょ・おもらし(退行現象):オムツが取れていたのに、またおねしょをするように。これは「赤ちゃん返り」の一つで、不安な気持ちから、安心できる赤ちゃんの頃に戻りたいという心の表れです。
- 夜泣き・悪夢:怖い体験が夢に出てきて、夜中に突然泣き叫ぶことがあります。
- 食欲不振または過食:不安から食欲がなくなったり、逆に食べ過ぎてしまったりします。
- 頭痛・腹痛:精神的なストレスが、体の痛として現れることも少なくありません。
行動に現れるサイン
- 甘えがひどくなる:一人でいられなくなり、常に親の後をついて回るようになります。
- 攻撃的になる・乱暴になる:不安や恐怖をうまく言葉にできず、お友達を叩いたり、物を投げたりといった行動で発散しようとします。
- 無口・無表情になる:自分の殻に閉じこもり、感情をあまり出さなくなります。
- 遊びの変化:地震ごっこなど、怖い体験を再現するような遊びを繰り返すことがあります。これは、怖い出来事を自分の中で整理しようとする、大切なプロセスなんです。
これらのサインは、決して「悪い子」になったわけではありません。「僕、今、すごく不安なんだよ」という、子どもからの必死のメッセージだと受け止めてあげてくださいね。
不安な心に寄り添う。今日からできる3つの「安心」のプレゼント
子どもの心のケアで一番大切なのは、「あなたは一人じゃないよ」「ここにいれば安全だよ」という安心感を、親が与えてあげることです。特別なことではなく、毎日の生活の中でできる、具体的な方法をご紹介します。
1. 「大好き」を伝えるスキンシップ
言葉以上に、子どもの心を安心させるのが、親からの温かいぬくもりです。
- ぎゅっと抱きしめる:何も言わなくても大丈夫。「大好きだよ」「そばにいるよ」という気持ちを込めて、優しく抱きしめてあげましょう。
- 手をつなぐ・背中をさする:避難所などで常に抱っこが難しい時でも、手をつないだり、背中を優しくさすってあげるだけでも、子どもは安心します。
【皐月のひとこと】
我が家の三女も、大きな地震の後はしばらく一人で眠れなくなりました。そんな時は、ただ隣で添い寝して、背中をトントンしてあげる。それだけで、すやすやと寝息を立て始めるんです。親のぬくもりは、何よりの薬ですね。
2. 子どもの「気持ち」を否定しない
子どもが不安や恐怖を口にしたら、真正面から受け止めてあげましょう。
- 「怖かったね」と共感する:「そんなことないよ」「もう大丈夫」と否定するのではなく、「うんうん、怖かったね」と、まずは子どもの気持ちに寄り添ってあげてください。
- 無理に聞き出さない:話したがらない時は、無理に聞き出す必要はありません。子どもが話したくなった時に、いつでも聞ける準備ができている、という姿勢が大切です。
3. 「いつも通り」をできるだけ作る
非日常の避難生活の中だからこそ、「いつもと同じ」という状況が、子どもの心の大きな支えになります。
- 決まった時間に寝る・起きる:生活リズムが乱れると、心も不安定になりがちです。できる範囲で、普段通りの生活リズムを心がけましょう。
- 簡単な役割を与える:例えば、「お皿を運ぶ係」など、子どもに簡単な役割をお願いするのも効果的です。「自分もみんなの役に立っている」という感覚が、自己肯定感を育みます。
これはNG!親がやってはいけないこと
良かれと思ってやったことが、逆に子どもの心を傷つけてしまうこともあります。以下の点には、少しだけ注意してみてください。
- 過度な情報を見せる:津波の映像など、衝撃的なニュースを繰り返し見せるのは避けましょう。子どもには刺激が強すぎます。
- 感情的に叱る:子どもの問題行動に、イライラしてしまうこともあるかもしれません。でも、感情的に叱るのは逆効果。親自身も辛い時は、一度深呼吸。可能であれば、他の大人に少しだけ子どもを見てもらい、一人になる時間を作りましょう。
- 「お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから」と我慢させる:上の子だって、まだまだ子どもです。年齢に関係なく、一人の子どもとして、甘えさせてあげてください。
まとめ:ママ・パパ自身の心も大切に
災害時、子どもの心を守るために、親は必死になります。でも、忘れないでください。ママ・パパ自身も、被災した一人の人間です。不安で、怖くて、当たり前なんです。
あなたが笑顔でいることが、子どもにとって一番の安心材料になります。辛い時は、周りの人に「助けて」と言ってください。弱音を吐いてもいいんです。
まずは、あなた自身の心を大切にしてくださいね。その温かい心が、必ずお子さんの未来を照らす光になりますから。