【医師監修】子どものアレルギー治療は新時代へ。「食べない」から「食べて治す」最新アプローチとは

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その「完全除去」、本当に必要ですか?子どものアレルギー治療、最新の常識

「この子は卵アレルギーだから、卵製品は一切ダメ」
「アナフィラキシーが怖いから、原因食物は徹底的に避けるしかない」

かつて、子どもの食物アレルギーの治療法は、**「原因となる食物を、完全に除去する」**のが常識でした。

しかし、その常識は、今、大きく変わろうとしています。

現在の治療の主流は、**「医師の指導のもと、安全な量を、あえて食べる」**ことで、体を慣らし、アレルギーの克服(寛解)を目指すという、真逆のアプローチです。

この記事では、子どものアレルギー診療に携わる医師の視点から、最新のアレルギー治療である**「経口免疫療法」**を中心に、ご家庭で知っておくべき予防策や、医療機関との付き合い方について、詳しく解説します。

なぜ、「食べて治す」アプローチが主流になったのか?

これまでの「完全除去」指導には、いくつかの問題点がありました。

  • 栄養の偏り: 卵や牛乳など、主要な栄養源を除去することで、子どもの成長に必要な栄養が不足するリスクがありました。
  • QOL(生活の質)の低下: 給食や外食、お友達とのおやつ交換など、集団生活の中で多くの制限が生まれ、子どもや家族に大きな精神的負担がかかりました。
  • 耐性獲得の機会損失: 本来、少量なら食べられるはずの食品まで完全に除去することで、体がアレルゲンに慣れる機会(耐性獲得)を失わせていた可能性が指摘されるようになりました。

これらの背景から、「安全性を確保した上で、食べられる範囲を見極め、少しずつ摂取していく」という、より積極的な治療法が注目されるようになったのです。

最新治療「経口免疫療法」とは?

経口免疫療法とは、食物アレルギーの原因となる食物を、医師の厳密な管理のもと、ごく少量から摂取し、徐々に増やしていくことで、体をアレルゲンに慣らしていく治療法です。

【治療の流れ(例:卵アレルギーの場合)】

  1. 診断: まず、血液検査や皮膚プリックテスト、食物経口負荷試験などを行い、アレルギーの原因と、安全に食べられる量を正確に診断します。
  2. 入院・外来での負荷試験: 医師・看護師の監視のもと、ごく微量の原因食物(例:固ゆで卵の白身0.1g)を摂取し、アレルギー症状が出ないかを確認します。
  3. 自宅での継続摂取: 負荷試験で安全性が確認された量を、毎日、自宅で継続して食べます。
  4. 定期的な増量: 定期的に医療機関を受診し、再び負荷試験を行って、安全性を確認しながら、少しずつ摂取量を増やしていきます。

このプロセスを、数ヶ月から数年単位で、根気強く続けていくことで、最終的にはアレルギー症状を誘発せずに、一定量の原因食物を食べられるようになることを目指します。

【注意点】

  • 自己判断は絶対にNG: 経口免疫療法は、アナフィラキシーなどの重篤な症状を誘発するリスクを伴います。必ず、専門的な知識と経験を持つアレルギー専門医のもとで行う必要があります。
  • すべての患者に適用できるわけではない: 年齢やアレルギーの重症度によっては、この治療法の対象とならない場合もあります。

家庭でできる、アレルギー予防と対策

  • 離乳食の開始を遅らせない: 最新の研究では、アレルギーが心配な食品(特に卵)も、生後5〜6ヶ月の早期から、少量ずつ与え始めた方が、アレルギーの発症を予防できる可能性が示唆されています。もちろん、湿疹があるなど、リスクの高いお子さんは、必ず医師に相談してから進めましょう。
  • スキンケアを徹底する: 皮膚のバリア機能が低下し、湿疹などがある状態だと、皮膚からアレルゲンが侵入し、アレルギーを発症しやすくなる(経皮感作)ことが分かっています。毎日の洗浄と保湿を徹底し、皮膚を健康な状態に保つことが、アレルギー予防の基本です。
  • 正しい情報を得る: インターネットには、不確かな情報や、古い常識が溢れています。信頼できる情報源(かかりつけ医、アレルギー専門医、公的機関のウェブサイトなど)から、最新の正しい知識を得るようにしましょう。

まとめ:アレルギー治療は、医師との二人三脚

子どもの食物アレルギー治療は、「除去か、摂取か」という単純な二元論ではありません。

大切なのは、専門医による正確な診断に基づき、その子にとっての「適切な量」を見極め、医師と保護者が二人三脚で、根気強く治療を続けていくことです。

過度に怖がらず、しかし、決して自己判断はせず、信頼できるパートナーとして、アレルギー専門医を頼ってください。その先に、子どもたちの食の世界を広げ、家族の笑顔を増やす未来が待っています。

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