はじめに:毎日が「イヤ!」との戦い。お疲れ様です
「ご飯食べる?」→「イヤ!」
「お風呂入る?」→「イヤ!」
「じゃあ、入らないの?」→「イヤ!」
何を言っても「イヤ!」の大合唱。道端に寝転がって、テコでも動かない。昨日まで大好きだったはずのものを、全力で拒否する…。
世に言う**「魔の2歳児」「悪魔の3歳児」**。その中心にある、壮絶な「イヤイヤ期」。今、まさにその渦中にいるお父さん、お母さん、本当に、本当にお疲れ様です。その大変さ、心の底からお察しします。
「私の育て方が、何か悪いのかな…」
「どうして、こんなにワガママになっちゃったんだろう…」
そんな風に、自分を責めたり、途方に暮れたりしていませんか?
こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。
何を隠そう、我が家の3姉妹も、それぞれ個性豊かなイヤイヤ期を披露してくれました。その度に、私も悩み、怒り、そして泣きました。でも、看護師として、子どもの発達について学んだ今なら、はっきりとわかります。あの「イヤ!」は、決して親を困らせるためのワガママではなかった、ということを。
この記事では、『魔の2歳児・悪魔の3歳児「イヤイヤ期」』シリーズの第1弾として、なぜ子どもは「イヤ!」しか言えなくなるのか、そのメカニズムを、脳の発達という科学的な視点から、分かりやすく解き明かしていきます。敵の正体がわかれば、戦い方も見えてくるはず。少しだけ、肩の力を抜いて読んでみてくださいね。
イヤイヤ期の正体:それは「第一次反抗期」という成長の証
イヤイヤ期は、専門用語で**「第一次反抗期」**と呼ばれます。そう、「反抗期」は、思春期だけのものではないのです。
この時期の子どもには、心と体、そして何より**「脳」に、劇的な変化が訪れています。イヤイヤ期の行動はすべて、この変化によって引き起こされる、ごく自然で、そして何より喜ばしい「成長の証」**なのです。
①「自分」の誕生!自我の芽生え
1歳頃までは、子どもは「自分とママは一心同体」だと思っています。しかし、歩けるようになり、言葉を話し始めると、「ママとは違う、一人の人間としての“自分”」という意識が、急速に芽生え始めます。
「これは、わたしの!」
「じぶんで、やりたい!」
この**「自我の芽生え」**こそが、イヤイヤ期のすべての始まりです。親の言うことを、ただ聞く存在だった自分が、「自分で考えて、自分で決めたい」という欲求を持つようになる。これって、ものすごい成長だと思いませんか?
② 脳の「アクセル」は急成長、でも「ブレーキ」はまだ未熟
子どもの脳は、感情や本能を司る「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」が、まず先に発達します。これが、いわば**感情の「アクセル」**です。「やりたい!」「こうしたい!」という気持ちを、爆発的に生み出します。
一方で、その感情をコントロールしたり、理性的に考えたりする「前頭前野(ぜんとうぜんや)」、つまり**感情の「ブレーキ」**が発達するのは、まだまだ先の話。4歳、5歳と、ゆっくり時間をかけて完成していきます。
つまり、イヤイヤ期の子どもは、**「高性能のアクセルと、ポンコツのブレーキを積んだ車」**のような状態なのです。一度「やりたい!」と思ったら、誰にも止められない。でも、どうしてそれをやりたいのか、うまく言葉で説明することもできない。このもどかしさが、「イヤ!」という万能な言葉になって、あふれ出てきてしまうのです。
③「イヤ!」は、唯一の自己表現ツール
「自分でやりたい」という強い意志が芽生えているのに、それを表現するための語彙力や、論理的に説明する能力は、まだ全く追いついていません。
「本当は、赤い服じゃなくて、青い服が着たいの」
「今は、ご飯じゃなくて、先に遊びたい気分なの」
そんな複雑な気持ちを、どう表現すればいいかわからない。そんな時に、子どもが使える、**最も簡単で、最も強い自己表現の言葉が、「イヤ!」**なのです。
つまり、子どもの言う「イヤ!」は、単純な拒絶ではありません。その裏には、**「本当はこうしたいんだ!」「私の気持ちをわかって!」**という、切実な心の叫びが隠れているのです。
ママナースの視点:イヤイヤ期は「脳の工事期間中」
私がイヤイヤ期に悩む親御さんにいつもお伝えするのは、「お子さんの脳は、今、大規模な工事中なんです」ということです。
工事現場では、大きな音が出たり、道が通行止めになったりしますよね。それと同じで、子どもの脳の中でも、新しい回路がどんどん作られ、古い回路が整理されている、まさに“工事の真っ最中”。だから、一時的に情緒が不安定になったり、癇癪を起こしたりするのは、当たり前のこと。
「うちの子、何か問題があるんじゃ…」なんて、心配する必要は全くありません。むしろ、「おお、今日も順調に工事が進んでいるな!」くらいに、どっしりと構えてあげてください。
まとめ:理由がわかれば、愛おしくなる(かもしれない)
イヤイヤ期の「イヤ!」が、
- 「自分」という存在に気づいた、成長の証であり、
- 感情のアクセルとブレーキのアンバランスさから来る、生理現象であり、
- 言葉にできない想いを伝える、不器用な自己表現である
ということが、お分かりいただけたでしょうか。
もちろん、理由がわかったからといって、明日からイライラがゼロになるわけではありません。それでも、「ああ、今、自我が爆発してるのね」「脳の工事、お疲れ様!」と、少しだけ客観的に、そして、ほんの少しだけ温かい目で見守ってあげられるようになるかもしれません。
次回の「シーン別対処法編」では、このメカニズムを踏まえた上で、食事、着替え、歯磨きなど、イヤイヤが頻発する具体的な場面で、親がどう対応すればいいのか、魔法のフレーズをたくさんご紹介します。ぜひ、お楽しみに!