はじめに:そのしつこい鼻水、RSウイルスかも
「鼻水と咳が、もう1週間も続いている…」
「熱はないけど、なんだか呼吸がゼーゼーして苦しそう…」
特に、秋から冬にかけて流行のピークを迎える、子どもの呼吸器感染症。その中でも、多くの親御さんを悩ませ、小児科医が特に警戒するのが**「RSウイルス感染症」**です。
大人がかかっても、軽い鼻風邪程度で済むことがほとんど。しかし、このウイルス、実は初めて感染する赤ちゃんと、体力の弱い高齢者にとっては、時に命に関わるほど重症化するリスクを秘めた、非常に厄介な相手なのです。
こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。
『季節の感染症、完全攻略』シリーズの第2弾。今回は、特に0歳〜1歳のお子さんを持つ親御さんに、ぜひ知っておいてほしい「RSウイルス」についてです。ただの風邪だと油断していたら、いつの間にか肺炎や細気管支炎に進行し、入院…なんてことにならないために、**RSウイルスの特徴と、家庭で注意深く観察すべき「重症化のサイン」**を、ママナースの視点から詳しく解説していきます。
RSウイルス感染症、その正体とは?
RSウイルスは、2歳になるまでに、ほぼ100%の子どもが一度は感染すると言われている、非常にありふれたウイルスです。一度かかっても、何度も感染を繰り返します。
- 主な症状: 発熱、鼻水、咳など、初期症状は普通の風邪とほとんど見分けがつきません。
- 特徴:
- とにかく、鼻水が多い! しかも、ネバネバとしていて、詰まりやすいのが特徴です。
- 咳がだんだんひどくなり、**「ゼーゼー」「ヒューヒュー」**といった喘鳴(ぜんめい)が出やすい。
- 流行る時期: 以前は秋〜冬が中心でしたが、近年は夏頃から流行が始まるなど、通年で見られます。
- 潜伏期間: 感染してから2〜8日(多くは4〜6日)
なぜ、小さな赤ちゃんは重症化しやすいの?
大人は、気管支が太く、体力もあるため、RSウイルスに感染しても軽い症状で済みます。しかし、生後6ヶ月未満の赤ちゃん、特に、生まれつき心臓や肺に病気がある子や、早産で生まれた子は、重症化のリスクが非常に高くなります(ハイリスク群と呼ばれます)。
その理由は、
- 気管支が非常に細い: ウイルスの炎症で気管支が少し腫れただけでも、空気の通り道が簡単に塞がれてしまいます。
- 鼻呼吸が中心: 赤ちゃんは、まだ口で呼吸するのが上手ではありません。そのため、大量の鼻水で鼻が詰まってしまうと、呼吸をすること自体が困難になります。
- 体力がなく、免疫も未熟: ウイルスと戦う力が、まだ十分に備わっていません。
これらの理由から、RSウイルスは、小さな赤ちゃんにとって「ただの風邪」では済まないことが多いのです。
見逃さないで!入院を避けるための「重症化のサイン」
RSウイルスには、特効薬がありません。そのため、家庭でのケアと、悪化のサインを見逃さないことが何よりも重要です。以下の症状が見られたら、すぐに小児科を受診してください。
【呼吸状態のチェックポイント】
- □ 呼吸が速く、苦しそう(肩で息をしている、息をするたびに小鼻がヒクヒクする)
- □ 息を吸う時に、胸やお腹がペコペコとへこむ(陥没呼吸)
- □ 呼吸に合わせて「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえる
- □ 咳き込んで、顔色が悪くなることがある
- □ 唇や爪の色が、白っぽかったり、紫色っぽかったりする(チアノーゼ)
【全身状態のチェックポイント】
- □ 母乳やミルクの飲みが、いつもの半分以下
- □ ぐったりしていて、元気がない
- □ おしっこの量が、明らかに減っている
- □ 眠れていない
これらのサインは、細気管支炎や肺炎に進行している可能性を示しています。特に、呼吸の異常は、緊急性が高いサインです。夜間であっても、ためらわずに救急外来を受診しましょう。
家庭でできること:とにかく「鼻水との戦い」
RSウイルスとの戦いは、すなわち**「鼻水との戦い」**と言っても過言ではありません。鼻詰まりを解消し、呼吸を楽にしてあげることが、家庭でできる最も重要なケアです。
- こまめな鼻水吸引: これが一番大切です。市販の**鼻水吸引器(電動タイプがおすすめ)**を使い、こまめに鼻水を吸ってあげましょう。特に、ミルクを飲む前や、寝る前に行うと効果的です。
- 加湿: 空気が乾燥すると、鼻水が固まりやすくなります。加湿器などで、部屋の湿度を50%〜60%に保ちましょう。
- 水分補給: 鼻水や咳で、体内の水分はどんどん失われます。脱水を防ぐため、少量ずつ、こまめに水分を与えましょう。
- 上半身を高くして寝かせる: 鼻水が喉に流れ込むのを防ぎ、呼吸を楽にするために、バスタオルなどを背中の下に入れて、少し傾斜をつけてあげましょう。
まとめ:正しい知識が、赤ちゃんの命を守る
RSウイルスは、多くの親、特に初めての育児に奮闘するママやパパを不安にさせる病気です。しかし、その特徴と、注意すべきサインを正しく知っておけば、過度に恐れる必要はありません。
「いつもと、ちょっと違うな」
その親の直感が、何よりの早期発見のセンサーになります。赤ちゃんの様子を注意深く観察し、心配なことがあれば、ためらわずに、かかりつけの小児科医に相談してくださいね。
次回は、『季節の感染症、完全攻略』シリーズの最終回。夏に流行のピークを迎え、「プール熱」とも呼ばれる**「アデノウイルス感染症」**について、詳しく解説します。