はじめに:その瞬間、私の頭は真っ白になった
これまでの2回の記事で、子どもの発熱時に使う「解熱剤」の基本と、よくある疑問についてお話してきました。
▼これまでの記事
- 【基本編】子どもの熱、何度から座薬を使う?種類、間隔、タイミングの全て
- 【疑問解消編】解熱剤を使っても熱が下がらない!そんな時の原因と対処法
最終回となる今回は、発熱に伴う症状の中でも、多くの親が最も恐怖を感じるであろう**「熱性けいれん」**についてです。
何を隠そう、私自身、長女が1歳の時、初めての熱性けいれんを経験しました。看護師として、知識としては知っていたはずなのに。いざ我が子が目の前で白目をむいて、手足を硬直させた瞬間、私の頭は完全に真っ白になりました。救急車を呼ぶ手が、震えて止まらなかったことを、今でも鮮明に覚えています。
こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。
この記事では、そんな私のリアルな体験談を交えながら、熱性けいれんとは何なのか、そして、万が一その瞬間に立ち会った時、親としてどう行動すればいいのかを、具体的にお伝えします。この記事は、あなたを怖がらせるためのものではありません。いざという時に、パニックにならず、お子さんのために最善の行動がとれるようになるための、“心の防災訓練”です。
そもそも「熱性けいれん」って、何?
熱性けいれんとは、その名の通り、**発熱(通常は38℃以上)が引き金となって起こる「けいれん発作」**のことです。生後6ヶ月〜5歳くらいまでの、脳の発達が未熟な子どもに起こりやすいと言われています。
親にとっては、非常に衝撃的な光景ですが、そのほとんどは**「単純型熱性けいれん」**と呼ばれるもので、**後遺症を残すことはなく、命に関わることもありません。**まずは、このことを知っておくだけでも、少し気持ちが違うはずです。
【単純型熱性けいれんの主な特徴】
- 全身のけいれん(手足がガクガク、または突っ張る)が左右対称に起こる
- けいれんの持続時間は、通常5分以内
- 1回の発熱期間中に、1回しか起こらない
【最重要】その瞬間、親がやるべきこと・やってはいけないこと
もし、お子さんがけいれんを起こしたら。パニックになりそうな気持ちをぐっとこらえて、以下の行動をとってください。
やるべきこと3つ
- 安全な場所に、体を横向きに寝かせる
- まずは、周囲の危険なもの(机の角、硬いおもちゃなど)から遠ざけます。
- そして、体を横向きにして寝かせてください。これは、嘔吐した時に、吐いたものが喉に詰まる(窒息)のを防ぐためです。これが最も重要です。
- 時間を計る
- スマホのタイマー機能などを使って、けいれんが何分何秒続いているかを正確に計ってください。この情報は、後で医師に伝える際に、非常に重要になります。
- 様子を観察する
- どんなけいれんか、冷静に観察します。「白目をむいている」「手足が突っ張っている」「ガクガク震えている」「左右対称か」など、見たままの様子を覚えておきましょう。動画を撮る余裕があれば、それも非常に役立ちます。
絶対にやってはいけないこと3つ
- 大声で呼びかける、体を揺さぶる
- 刺激を与えることで、けいれんを助長してしまう可能性があります。静かに見守ってください。
- 口の中に指や箸などを入れる
- 昔は「舌を噛まないように」と、こういった対応がされていましたが、これは絶対にNGです。指を噛まれて親が怪我をするだけでなく、子どもの口の中を傷つけたり、呼吸を妨げたりする危険があります。熱性けいれんで舌を噛み切ることは、まずありません。
- 慌てて抱きかかえる
- 抱きしめたい気持ちは痛いほどわかります。でも、まずは安全な場所に寝かせることが最優先です。けいれんが収まってから、優しく抱きしめてあげてください。
けいれんが収まったら…そして、救急車を呼ぶ判断
ほとんどのけいれんは、5分以内に自然と収まります。けいれんが収まった後は、子どもはぼーっとしたり、そのまま眠ってしまったりすることが多いです。
【救急車を呼ぶべきかどうかの判断】
- 初めてけいれんを起こした場合 → 基本的には、救急車を呼びましょう。
- 熱性けいれん以外の、髄膜炎など、怖い病気が隠れている可能性を否定するためにも、一度は必ず病院で診てもらう必要があります。
- 2回目以降で、主治医から指示をもらっている場合 → 指示に従いましょう。
- 「5分以上続いたら救急車を呼んでください」「けいれんが収まって、普段と変わりなく眠れているなら、翌日受診で大丈夫です」など、事前に指示を受けている場合は、それに従います。
【救急車を待つ間に準備しておくもの】
- 保険証、医療証、母子手帳
- お薬手帳
- 着替え、おむつ、タオルなど
そして、救急隊員や医師に伝えるべき情報を、頭の中で整理しておきましょう。
【伝えるべき情報】
- 何時何分から、何分間けいれんが続いたか
- けいれん中の様子(白目、手足の動きなど)
- 熱が何度あったか
- けいれん後の意識の状態
まとめ:正しい知識が、あなたと子どもを守る“お守り”になる
長女がけいれんを起こした後、私は自分を責めました。「看護師なのに、何もできなかった」と。でも、後から思えば、あの時、私が無意識にやっていた「体を横向きにする」「時間を計る」という行動は、教科書通り、マニュアル通りの正しい対応でした。
パニックの中でも、体が動いた。それは、頭の片隅に「正しい知識」があったからです。
この記事を読んだあなたも、もう大丈夫。万が一の時、きっと冷静に行動できるはずです。熱性けいれんは、親にとって本当に怖い経験です。でも、その経験を乗り越えた時、親子の絆は、もっともっと強くなるはずです。
これで、『ママナースが教える「解熱剤」の正しい使い方』シリーズは終わりです。この3つの記事が、子どもの急な発熱に悩む、すべての親御さんたちの“お守り”になることを、心から願っています。