はじめに:今日も、戦場からのご帰還、お疲れ様です
前回の「メカニズム編」では、イヤイヤ期が「自我の芽生え」と「脳の未熟さ」からくる、喜ばしい成長の証である、というお話をしました。
▼前回の記事はこちら
【メカニズム編】なぜ「イヤ」しか言わないの?子どもの脳の発達から読み解くイヤイヤ期の正体
「なるほど、理由はわかった。でも、理屈じゃないのよ!」
「目の前でギャン泣きされて、こっちが泣きたいのは、今なの!」
そうですよね。頭で理解することと、現実の対応は全くの別問題。毎日の食事、着替え、お風呂、歯磨き、お出かけ…と、イヤイヤ期の子育ては、まさに地雷原を歩くようなもの。一日が終わる頃には、親のHPはもうゼロ寸前です。
こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。
イヤイヤ期の対応のコツは、真正面から「説得」しようとするのではなく、子どもの「自分で決めたい!」という気持ちを尊重しながら、親の望む方向へ、上手に“誘導”してあげること。まるで、合気道のように、相手の力を利用して、華麗に受け流すイメージです。
この記事では、「シーン別対処法編」として、イヤイヤが特に頻発する場面ごとに、すぐに使える「魔法の対応フレーズ」と、具体的なアクションを、たっぷりとご紹介します!
基本戦略:子どもに「選ばせる」ことで、主導権を渡す
イヤイヤ期の対応で、最も効果的な基本戦略。それは、**「子ども自身に、選択させる」**ことです。「〜しなさい!」という命令ではなく、「どっちがいい?」と問いかけることで、子どもは「自分で決めた!」という満足感を得ることができ、驚くほどすんなりと、次の行動に移ってくれることがあります。
この基本戦略を頭に置いた上で、各シーンの対応策を見ていきましょう。
シーン1:【食事】遊び食べ、好き嫌い…「ご飯イヤ!」
- NG対応: 「早く食べなさい!」「好き嫌いしないで、ちゃんと座って!」
- 魔法のフレーズ:
- 「どっちから食べる?お肉と、お野菜、競争だ!」 → 選択肢を与え、ゲーム感覚に持ち込む。
- 「ウサギさんみたいに、上手にモグモグできるかな?」 → 好きな動物などになりきらせる。
- 「あと、スプーン3杯食べたら、おしまいにしようか!」 → 終わりの見通しを立ててあげると、安心する。
- アクション:
- ある程度食べたら、「ごちそうさま」で、潔く切り上げる。ダラダラ食べは、お互いにとってストレスです。
- 食事の前に、「あと、ブロックで5分遊んだら、ご飯にしようね」と、前もって声かけをしておく(見通しを立てる)。
シーン2:【着替え】「この服イヤ!」「まだパジャマでいたいの!」
- NG対応: 「わがまま言わないで、早く着替えなさい!」と、無理やり服を脱がせる。
- 魔法のフレーズ:
- 「今日は、どっちの服にする?しましまさんと、ワンワン、どっちがいい?」 → 親が着てほしい服を2択で提示し、本人に選ばせる。
- 「ママと、どっちが早くお着替えできるか、競争だよ!よーい、ドン!」 → ゲーム性を持たせる。
- 「ズボンさん、かくれんぼしてるね。〇〇ちゃんの足はどこかな〜?」 → 服をキャラクターに見立てて、遊びに変える。
- アクション:
- 時間に余裕を持つことが、何よりの心の安定剤。朝は、15分早起きするだけで、イライラが半減します。
シーン3:【歯磨き】「口を開けるの、イヤ!」
- NG対応: 羽交い締めにして、無理やり歯ブラシを口に突っ込む。(最終手段としては、仕方ない時もありますが…)
- 魔法のフレーズ:
- 「あーんして、バイキンさん、いるかなー?ママ、見ててあげる!」 → 恐怖心を煽るのではなく、協力して敵(バイキン)を倒す、というストーリーを作る。
- 「シュッシュッポッポ〜!歯磨き電車、出発しまーす!」 → 歯ブラシを乗り物に見立てる。
- 「好きな味の歯磨き粉、どっちにする?」 → 歯磨き粉を複数用意しておき、選ばせる。
- アクション:
- 親が、楽しそうに歯磨きをしている姿を見せる。「気持ちいいね〜!」と、ポジティブな言葉をかける。
- 歯磨きができたら、カレンダーにシールを貼るなど、「できた!」を可視化してあげる。
シーン4:【お出かけ・帰り道】「まだ遊びたい!」「帰りたくない!」
- NG対応: 「もう帰るよ!」と、無理やり手を引っ張って連れて帰る。
- 魔法のフレーズ:
- 「あと、滑り台を3回やったら、おしまいにしようか。お約束できる?」 → 終わりの見通しを伝え、約束をする。
- 「お家に帰ったら、美味しいおやつが待ってるよ。何がいいかな?」 → 帰った後の、楽しいことに気持ちを切り替えさせる。
- 「じゃあ、あそこの電信柱まで、競争で帰ろう!」 → 帰り道も、遊びの延長にしてしまう。
- アクション:
- 公園などに行く前に、「時計の長い針が、6のところに来たら、帰ろうね」と、視覚的にわかる形で約束をしておく。
- 子どもの「まだ遊びたい」という気持ちを、まずは「そうだね、まだ遊びたいよね。楽しいもんね」と、一度受け止めてあげる(共感)。
まとめ:親は、名プロデューサーであれ
イヤイヤ期の対応は、まさに子どもを気持ちよく“演出”する、プロデューサーのような仕事です。
子どもの「自分でやりたい!」という気持ちを尊重し、プライドを傷つけないように、上手に選択肢を与え、遊びに変え、次の行動へとエスコートしてあげる。
もちろん、毎日こんなにうまくいくわけではありません。どんな手を使っても、ダメな時はダメです。そんな時は、親も一緒に「イヤだー!」と叫んでみるのも、案外スッキリするかもしれません(笑)。
完璧を目指さず、試行錯誤しながら、親子でこのユニークな時期を乗り切っていきましょう。
次回の最終回では、「親のメンタル編」として、日々、イヤイヤ期の対応で削られていく親自身の心を、どう守っていけばいいのか、具体的なメンタルケア術についてお話します。