はじめに:自分のための「処方箋」、持っていますか?

前回の「気づき編」では、育児中のママが陥りやすい心の不調の種類と、そのサインについてお話ししました。

▼前回の記事はこちら
【気づき編】「私だけがおかしいの?」育児中にママが陥る心の不調、その種類とサイン

「これ、私のことかも…」と、ご自身の心の疲れに気づいた方もいるかもしれません。自分の状態を客観的に知ることは、回復への大きな一歩です。でも、次に思うのは「じゃあ、どうすればいいの?」ということですよね。

こんにちは!3姉妹の母で、現役看護師の皐月です。

看護師は、患者さんのケアをするのが仕事ですが、自分自身のケア、つまり「セルフケア」も、同じくらい大切だと教わります。なぜなら、自分が健やかでなければ、人を思いやる余裕なんて生まれないからです。これは、育児をするママにこそ、当てはまる言葉だと思っています。

この記事では、「実践編」として、頑張り屋さんで、つい自分のことを後回しにしてしまうママにこそ試してほしい、心を軽くするための具体的なセルフケア術を「処方箋」としてたくさんご紹介します。難しいことは一つもありません。ぜひ、今日から一つでも試してみてくださいね。


処方箋1:まずは5分から。すきま時間でできる「心のリセット術」

「自分の時間なんて、1分もない!」そんなママにこそ、試してほしいのが「すきま時間」の活用です。子どもがお昼寝した5分、トイレに立った1分でも、意識的に自分をケアする時間に変えられます。

① 深呼吸で、自律神経を整える

イライラや不安を感じた時、私たちの呼吸は浅くなっています。意識的に深い呼吸をすることで、心と体をリラックスさせる副交感神経が優位になります。

  1. 鼻から4秒かけて、ゆっくり息を吸い込む(お腹が膨らむのを意識して)
  2. 7秒間、息を止める
  3. 口から8秒かけて、ゆっくり息を吐き出す(お腹がへこむのを意識して)

これを3回繰り返すだけ。場所を選ばず、いつでもできる最強のリセット術です。

② 五感を研ぎ澄ます「グラウンディング」

不安で頭がいっぱいになった時、意識を「今、ここ」に戻すテクニックです。

  • 目に見えるものを5つ、声に出して言う(例:「天井、カーテン、時計…」)
  • 肌で感じるものを4つ、意識する(例:「床のひんやり感、服の肌触り…」)
  • 聞こえる音を3つ、耳を澄ませて聞く(例:「冷蔵庫の音、遠くの車の音…」)
  • 今ある匂いを2つ、嗅いでみる(例:「コーヒーの香り、赤ちゃんの匂い…」)
  • 味わえるものを1つ、想像する(例:「好きなチョコレートの味」)

ぐるぐる思考から抜け出し、心を落ち着かせることができます。

③ 好きな香りをかぐ

アロマオイルをティッシュに1滴たらして香りを嗅いだり、好きな香りのハンドクリームを塗ったり。嗅覚は、脳に直接働きかけるため、瞬時に気分を変える効果があります。


処方箋2:「〜べき」を手放す、心の負担軽減術

育児中のママを苦しめる「〜べき」という呪いの言葉。これを、少しだけ緩めてみませんか?

① 「まあ、いっか」を口癖にする

「離乳食は、絶対に手作りするべき」→「**まあ、いっか。**今日はベビーフードに頼ろう」
「部屋は、いつも綺麗にしておくべき」→「**まあ、いっか。**掃除は明日やろう」

声に出して言うのがポイントです。完璧じゃない自分を、自分で許してあげましょう。ママが笑顔でいること以上に、大切なことなんてありません。

② 家事のハードルを極限まで下げる

  • 便利な家電に頼る: 食洗機、乾燥機付き洗濯機、ロボット掃除機は、もはや贅沢品ではなく、ママの心の平穏を守る必需品です。
  • ネットスーパーや宅配サービスをフル活用: 買い物に行く時間と労力を、自分を休ませる時間に変えましょう。
  • 「ついで掃除」を習慣に: 「歯を磨くついでに、洗面台をさっと拭く」など、大きな掃除の時間をとるのではなく、小さな「ついで」を積み重ねる方が、気持ちが楽になります。

③ SNSと上手に距離を置く

キラキラした育児の投稿を見て、落ち込んでしまうなら、それは心が疲れているサイン。思い切って、デジタルデトックスする日を作ってみましょう。見たくない情報は、ミュート機能などを活用して、自分の心を守る工夫も大切です。


処方箋3:自分を「予約」する、セルフケアの時間術

「時間ができたらやろう」では、ママのセルフケア時間は永遠にやってきません。スケジュール帳に、「自分をケアする時間」を、他の予定と同じように書き込んでしまうのがおすすめです。

  • 週に1回、30分でもOK: 「〇曜日の21時からは、好きなドラマを見る時間」と決めて、家族にも宣言してしまいましょう。
  • 自分だけの「ご褒美リスト」を作る: 「ゆっくりお風呂に入る」「好きな音楽を聴きながら、雑誌を読む」「コンビニで一番高いアイスを買う」など、ハードルの低いご褒美をたくさん用意しておくと、実践しやすくなります。

まとめ:セルフケアは、わがままじゃない。ママの「仕事」です

セルフケアは、決して「楽をすること」や「わがまま」ではありません。車がガソリンなしで走れないように、ママも、心と体のエネルギーがなければ、笑顔で子どもと向き合うことはできません。

自分自身を大切にケアすることは、家族を大切にすることに直結する、ママの重要な「仕事」の一つなのです。

とはいえ、「一人では、どうしても心が晴れない」「誰かに話を聞いてほしい」と感じることもありますよね。

次回の最終回では、そんな時にどうすればいいのか。「助けて」の声をあげることの大切さと、パートナーや社会を味方につける方法について、具体的にお話しします。