セブン&アイ・ホールディングスの純利益49.3%減という衝撃的な数字は、一朝一夕に生じたものではありません。長年にわたり積み重なった複合的な要因が、同社の業績を悪化させるに至ったのです。本章では、その要因を多角的に分析し、コンビニ王者の凋落の真相に迫ります。
2-1. コロナ禍の影響:生活様式の変化とコンビニ離れ
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症は、セブン&アイ・ホールディングスにとって大きな試練となりました。外出自粛やテレワークの普及により、人々の生活様式が大きく変化し、コンビニの利用頻度が激減したのです。
2-1-1. オフィス街・繁華街の店舗の苦戦
特に、オフィス街や繁華街にある店舗は、客足の減少が顕著でした。オフィスワーカーのテレワーク化や、イベントの中止による人出の減少が、コンビニの売上を直撃したのです。
2-1-2. 数字で見るコロナ禍の影響
セブン&アイ・ホールディングスの決算資料によると、2021年2月期の既存店売上高は、前年同期比で5.6%減少しました。これは、リーマンショック後の2009年2月期以来、12年ぶりの大幅な減少です。
2-1-3. コロナ禍からの回復の遅れ
2023年に入り、新型コロナウイルス感染症の感染状況は落ち着きを見せましたが、セブン&アイ・ホールディングスの業績回復は遅れています。これは、人々の生活様式がコロナ禍以前に戻っていないことや、競合他社の台頭など、様々な要因が複合的に影響していると考えられます。
2-2. 物価高騰と節約志向:家計を圧迫するインフレの波
2022年以降、世界的なインフレの影響で、日本でも物価が上昇しました。食料品や日用品の価格が高騰し、消費者の節約志向が強まったことは、コンビニ業界全体にとって逆風となりました。
2-2-1. コンビニ商品の価格高騰
コンビニ商品は、スーパーマーケットやドラッグストアに比べて価格が高い傾向にあります。これは、24時間営業や人件費などのコストが上乗せされているためです。物価高騰により、この価格差がより意識されるようになり、消費者はより安い店に流れるようになりました。
2-2-2. セブンイレブンの価格戦略
セブンイレブンは、これまで高品質・高価格路線を打ち出していましたが、物価高騰の中でこの戦略が裏目に出ているとの指摘もあります。実際、2024年3~5月期の既存店客数は、前年同期比で4.8%減少しています。
2-2-3. 消費者の声
SNS上では、「セブンイレブンは高いから、最近はスーパーで買うことが多い」「同じ商品なら、少しでも安い方がいい」といった声が多数見られます。
2-3. 競合の台頭:ローソン・ファミマの攻勢
コンビニ業界では、ローソンやファミリーマートなど、競合他社の台頭も著しいです。各社は、独自の商品開発やサービス展開に力を入れ、セブンイレブンのシェアを奪い取ろうとしのぎを削っています。
2-3-1. ローソンの「マチカフェ」
ローソンは、2011年に「マチカフェ」を導入し、コンビニコーヒーブームの先駆けとなりました。その後も、品質向上やメニューの拡充を続け、現在ではセブンカフェと人気を二分する存在となっています。
2-3-2. ファミリーマートの「ファミペイ」
ファミリーマートは、2019年にスマホ決済サービス「ファミペイ」を導入しました。ファミペイは、ポイント還元率の高さや、様々なキャンペーンで人気を集めています。
2-3-3. 競合他社の戦略
ローソンやファミリーマートは、セブンイレブンが弱みを見せる分野に積極的に投資し、顧客を奪い取ろうとしています。例えば、ローソンは健康志向に対応した商品開発に力を入れており、ファミリーマートはプライベートブランド商品の拡充を進めています。
2-4. 消費者ニーズの変化:多様化する価値観への対応
消費者のニーズも多様化しています。健康志向の高まりや、環境問題への関心の高まりなど、従来のコンビニの品揃えやサービスでは対応できないニーズが増えています。
2-4-1. 健康志向への対応
健康志向の高まりを受け、低カロリーや低糖質の商品を求める消費者が増えています。セブンイレブンも、健康志向に対応した商品を展開していますが、競合他社に比べて遅れを取っているとの指摘もあります。
2-4-2. 環境問題への対応
プラスチックごみの削減など、環境問題への関心が高まる中、セブンイレブンは、レジ袋の有料化や、リサイクル素材を使った商品の開発などに取り組んでいます。しかし、これらの取り組みは、まだ十分とは言えず、さらなる努力が求められています。
2-4-3. 多様化するニーズへの対応
セブンイレブンは、多様化する消費者ニーズに対応するため、商品やサービスのラインナップを拡充する必要があります。例えば、ベジタリアンやヴィーガン向けの商品、アレルギー対応の商品、オーガニック商品などを充実させることが求められています。
2-5. 内部要因:過去の成功体験からの脱却
セブン&アイ・ホールディングス自身の内部要因も、業績悪化に拍車をかけています。
2-5-1. グループ内企業間の連携不足
セブンイレブン、イトーヨーカドー、そごう・西武など、グループ内企業間の連携が不足しており、シナジー効果を生み出せていません。例えば、セブンイレブンで販売している商品をイトーヨーカドーでも販売するなど、グループ内のリソースを有効活用できていないという指摘があります。
2-5-2. 意思決定の遅さ
経営層の意思決定が遅く、市場の変化に迅速に対応できていません。これは、セブン&アイ・ホールディングスが巨大な組織であることや、過去の成功体験にとらわれていることが原因と考えられます。
2-5-3. 不採算事業の整理
イトーヨーカドーなど、不採算事業の整理が遅れており、業績の足を引っ張っています。これらの事業を早期に整理し、収益性の高い事業に経営資源を集中させることが求められています。
2-6. まとめ
セブン&アイ・ホールディングスの業績悪化は、新型コロナウイルス感染症の影響、物価高騰、競合の台頭、消費者ニーズの変化、内部要因など、様々な要因が複合的に絡み合った結果です。これらの課題を克服し、再び成長軌道に乗せるためには、抜本的な構造改革が必要です。
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