先日、新入社員の4割が研修期間を終えた30日以内に退職してしまう。何が原因なんだろうか。
という相談を受けました。
退職率、離職率。
昨今、この話題は尽きる事がありません。
今回のカウンセリング事例は、この退職についてです。
新入社員が何を思い、退職を選択したのかを考察してみます。
研修から現場配属のスケジュール
相談を受けた職場の入社後スケジュールは
①座学研修 40日間(約2か月弱)
②現場配属[OJT期間] 30日(約一か月半)
③現場の既存チームへ配属
職種が専門的な内容の為に、座学の研修には時間をかけており約2か月弱、40日間かけて行っていました。
その後の現場配属も、OJT期間として育成担当者が30日間、約1か月半にわたり新入社員をフォローしながら育成をしています。
そしてOJT期間に、定められた設定目標を達成できたら、既存社員たちと共に業務をするチームへと配属されます。
実質、ここから独り立ちして現場で業務を開始します。
スケジュールだけを見ると、研修期間やOJT期間をしっかりと確保しています。
手厚く育成の体制を整えているように感じました。
退職した新入社員の退職理由
相談を受けた時の退職をした社員は
新入社員8名で入社して合同研修を実施、その内の2名が現場配属のOJT期間で退職をしてしまいました。
座学研修では2名とも成績は上位で、順調な進捗だった様です。
OJT期間も、共に成績は上位で順調な進捗に見えました。
しかし、その2名は前触れなく
「OJT期間に定められた設定目標を達成できる気がしない」
「OJT期間を終えて、独り立ちできる気がしない」
との理由で退職をしました。
この退職理由に着目して、考察していきましょう。
OJTの育成方法と目標設定について
育成方法は、最初はマンツーマンでフォローをしながら業務を行います。
その後、フォロー者1名に対して2名、フォロー者1名に対して3名と徐々に独り立ちする様に育成をしていました。
OJTを終了する為の目標設定は、業務の生産性を元に設定されていました。
設定目標はベテラン社員の生産性の半分程度。
簡単ではありませんが、不可能な目標と言うほど難しい内容ではない様に感じました。
しかしこのOJTは期間が決まっており、期間中の目標達成も、また一つの目標となっていました。
つまり、退職理由の正しい解釈としては
「決められたOJT期間中に目標達成できる気がしない」
という事の様です。
目標達成を諦め、退職を選んだのです。
諦めるとはなにか
諦めるとは
「自らの目標の達成、もしくは望みの実現が困難であるとの認識をきっかけとし、その目標や望みを放棄する事」
と一般的には定義されています。
そして
「諦める=必ずしも否定的な事ではない」
とも考えられます。
この諦める行為には 建設的な側面もあり「精神的健康に対して多用な機能を有する」という研究結果の例があります。
つまり、ストレスコーピング的な意味で諦めることもあるという事です。
過度なストレスから自分を解放し、精神的健康を維持する為に建設的な諦めを選択する事もあるわけです。
諦めるロジック
諦めるというのは
「諦めるきっかけ+諦め方」
で、諦めた後の行動も含めた結果がでます。
今回の研修生2名に当てはめると
「諦めるきっかけがあり、その諦め方が退職だった」
という事になります。
ここで、東京大学大学院教育学研究科の2013年の論文 を元に諦めたきっかけと諦め方のロジックを見ていきましょう。
「諦めたきっかけ」
失敗可能性の認識 15%
今後努力を続けても、当該の目標の達成に失敗する可能性があることを認識した場合、15%の人は諦める事を選択します。
達成困難の認識 49%
現状では自分にとって、当該の目標の達成が困難であると認識した場合、49%の人は諦める事を選択します。
達成不可能の認識 36%
自分の努力とは関係なく、当該の目標の実現が絶対に不可能である事を認識した場合、36%の人は諦める事を選択します。
統計的に、失敗の可能性を認識するだけで、諦めるきっかけになる人が15%存在します。
達成が困難であるという認識は、約50%の人が諦めるきっかけとなっています。
失敗の可能性や達成困難の認識を乗り越えた人も、最終的に達成不可能だと認識をした時点で諦める事となります。
「諦め方」
戦略的再設定 29.4%
目標達成の為の戦略を立て直し、違う道筋で達成を目指す諦め方。
目標の妥協 17.6%
本来の目標から妥協し、水準を下げた目標へ変更する諦め方。
現状の許容 14.7%
無理な状況を許容し、現状維持とする諦め方。
目標の再選択 17.6%
違う目標を選択する諦め方。
目標の放棄 20.7%
目標を放棄する諦め方
諦めるロジックを、この職場の育成体制に当てはめてみる
前途した統計データを元に、この職場で
「諦めるきっかけがあり、その諦め方が退職だった」
状況を考察してみると
約30%の人は、目標は変えずにアプローチを変えて目指す諦め方をします。つまり退職はしません。
約38%は、目標の再選択と目標の放棄を合わせた割合です。
この育成体制の目標はOJTを終える事なので、再選択はできません。
そして目標の放棄は、つまり退職です。
この事から、この職場の育成体制では約38%の人が「退職という諦め方をする」事となります。
約32%は、「目標の妥協」と「現状の許容」です。
残念ですが、現在の育成体制ではOJT期間が決められており、また達成目標が決まっています。
期間も目標も変動させる事はできないそうです。
となれば、この2つの諦め方も選択できないので、約32%も退職という諦め方をせざるを得ない事がわかります。
まとめると、この職場の育成体制は
・諦めた時、退職せず戦略を立て直して達成を目指す人は約30%
・諦めた時、退職を選択する人は約38%
・育成の体制により、退職を選択するしかない人は約32%
ということになります。
実に70%が、諦めるきっかけがある場合に退職という諦め方をする職場だ、という事です。
退職を抑止し、より多くの社員を現場配属させるには
ここまでの内容から
・OJT期間を定めず、期間を延ばせば良い
・目標設定を下げればよい
と言う考え方もできます。
しかし、会社には新人育成の予算があります。
いかに退職を抑止し、予算内でOJT期間中に目標達成できるように育てるのか。
重要なポイントは、
この退職に至るロジックのすべては「諦めた場合」
だという事です。
つまり、諦める事なく業務を習得し、目標を達成できるような育成体制があれば、退職を抑止する事ができるのです。
以上が、退職を選択する理由の考察です。
諦める事なく目標を達成できる様な育成体制の構築は、また次の記事で書こうと思います。
この考察が、何かのお役に立てれば幸いです。
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